国内

池袋暴走事故遺族「最後の会見」後、松永拓也さんのこれから

9月18日、刑事裁判が終わったことを報告する松永拓也さん。(写真/時事)

9月18日、刑事裁判が終わったことを報告する松永拓也さん。(写真/時事)

 2人が死亡、9人が重軽傷を負った池袋暴走死傷事故。飯塚幸三被告(90)に禁錮5年の実刑判決が確定し刑事裁判は終わった。

「⻑かった裁判がようやく終わるという安堵の気持ちと正直とても複雑な心境です」。妻の真菜さん(当時31才)、娘の莉子ちゃん(当時3才)を亡くした被害者遺族である松永拓也さん(35)は、「おそらく最後となる会見」で、そう心境を語った。

 これまでの会見でも、冷静に言葉を選び自分の想いを伝えてきた松永さん。時には感情を揺さぶられるのではないかと思うような報道陣からの質問にも、動揺することなく的確に答えていく。

 公判前に話題になった「飯塚被告へ」というタイトルのブログは「もやもやしていた気持ちを言語化してみようと一気に書いた」というが、SNSに投稿する文章も感情にとらわれすぎず無駄がなくブレていない。

“伝える”ということに秀でた人なのかと思うが、松永さん自身は「事故の前まではSNSをやったこともなかったし、仕事的にもスピーチする機会もなく人前で話すのは苦手な“普通の会社員”です」と言う。

 それが、ある日突然、愛する家族を失うという非情な出来事が起こり、日本中が注目する立場になってしまう。深い悲しみから立ち上がって、現実と向き合い、自らの言葉で発信していく心の強さ、そして他者を思いやれる客観性。どうしたらその境地に至れるのか。松永さんの会見や取材の機会に接して感服せずにいられない。

 2019年4月19日、事故が起こった5日後に松永さんは最初の会見を行った。コメントを出すか代読か、という選択肢もあった中、まだ混乱して何がなんだかわからない状況ではあったが、松永さんはほとんど直感で「自分が出なきゃ」と思ったという。

 交通事故はテレビの中だけのことではない、家族3人静かに生きてきた普通の会社員にも突然起こる、誰もが当事者になってしまう可能性がある、という現実。それまでは自身が“他人事”と思っていた一般人の自分が顔を出すことで、改めて知ってもらいたい気持ちがそうさせた。

2019年4月24日、事故が起こった5日後に初めて会見を行った時の松永拓也さん。(写真/時事)

2019年4月24日、事故が起こった5日後に初めて会見を行った時の松永拓也さん。(写真/時事)

 そして事故から1年を期に、松永さんは実名を公開する。

「事故当初、自分の名前を出すのは恐怖心がありました。批判や好奇の目で見られるのではないかと。でも、多くの方が支援してくださり心の準備や覚悟もできたので、実名を出して交通事故防止活動を続けていく決意ができました」(松永さん)

 その時は、コロナウィルスの影響もあり会見は行わずYouTubeで「遺族の想い」を発信。「慣れていない作業でお見苦しい、お聞き苦しいところはあるかもしれませんが」と始まる動画だが、「交通事故の犠牲者をひとりでも減らしたい」という願いや刑事裁判についてなど、感情が先走ったりしない要点を得たわかりやすい語りかけをしている。

 最初の頃の会見は「記憶も飛び飛びでひどいものでした」と松永さんは振り返るが、1年後のこの動画では、表情も落ち着いてまるで違う。真菜さんと莉子ちゃんの命を無駄にしないためにするべきことが見えた強い想いが明確に伝わってくる。

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン