それでも全国の視聴者は画面に映る可憐な少女の姿に釘付けになった。
「沢口さんは主婦層に絶大な人気があった。途中からは難しい言い回しは避けて2行以上の台詞は書かないようにした(笑)。彼女には思わず応援したくなる健気な魅力があった」(ジェームス氏)
相手役を演じた川野太郎は当時をこう振り返る。
「やっこちゃんとはお互い新人同士で約1年過ごしました。本当に青春でしたね。彼女は見た目だけじゃなく心もキレイで、強い女優さんでもありました。リハーサルでベテラン俳優に怒られても、翌日にはその方のところに真っ先に行って『おはようございます!』って挨拶していました。僕より5歳くらい年下ですが、その芯の強い美しさに心が揺れていなかったかと言えば、嘘になりますね(笑)。“唯一無二の天使”のような存在です」
コラムニストのペリー荻野氏は、沢口を「ヒロインをやるために生まれた女優」と評する。
「当時のディレクターは『芝居に注文をつけるとすぐに飲み込んで芝居がどんどん変わっていく』と沢口さんの勘の良さを絶賛したそうです。日本中の誰もが、かをるにときめいてしまう没入感さえあったと思います。その後は『竹取物語』や『源義経』の静御前役、『竜馬がゆく』のおりょう役などでも常にヒロインそのものでした」
三谷幸喜が見抜いた「喜劇性」
仕事に向かう姿勢は真面目で、演じる役柄はイメージ通りの「清純派」。そう認知されてきた沢口だが、一方、テレビCMなどではコミカルな一面をお茶の間に届けてきた。
そうした横顔について、沢口のラブコールで映画『科捜研の女』にゲスト出演した伊東四朗が語る。
「1998年のTBSドラマ『海まで5分』で共演した後、三谷幸喜さんに『今度、芝居をやるんですけど沢口さんをどうですか?』と相談されたんです。三谷さんは『海まで5分』で『沢口さんの喜劇性をみた』って言うんですよ。私の娘役でしたが、そんなに笑わせる役でもなかったはず。それで見つける人もすごいけど、見つけられる人もすごいと思いました」
そうして実現したのが、三谷幸喜作の舞台『バッドニュース☆グッドタイミング』(2001年)だった。
「案の定というか、とても良い芝居でした。沢口さんは照れも何もかなぐり捨てて、彼女の持つ100%以上のものをやってくれた。僕としては、これほどの頑張りを見せてくれた女優さんは初めてでした」(伊東)
ここから、喜劇女優・沢口靖子の活躍の場が広がる。舞台を見た三宅裕司が、伊東と組んでやっていたコントライブ『いい加減にしてみました3』(2010年)に沢口を誘ったのだ。伊東が続ける。
「3人でやった時は、コントに大真面目に取り組む姿に驚きました。彼女の一本気な真面目さはサスペンスでも喜劇でも変わらない。『気付いたことがあったら必ず言ってください』と稽古に全力投球していました」