鑑定器具を扱う所作は研究の賜物(C)2021 『科捜研の女 -劇場版-』製作委員会

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 その稽古中、こんな出来事があったという。

「沢口さんがケーキの箱をうっかり落として、『あっ』と言って拾おうとすると自分の足で蹴ってしまう。それを繰り返して蹴りながら舞台の袖に入っていくシーン。その稽古の時、蹴った方向が悪くて箱が客席のほうに落ちてしまったんです。

 それ以来、沢口さんは毎朝みんなより早く来て、ケーキの箱を狙った角度で蹴れるように落とす練習していました。よく“笑いの神様”などと言って不測の事態が起きて笑いになることがありますが、このシーンにそれは不要で舞台袖まで蹴り続けることが大事だった。彼女はそれをきちんと理解して、何度も何度も練習を重ねた。喜劇女優のあるべき姿でした」

 喜劇は、役者がどこまでも真面目に演じるからこそ面白い。ひたすら演技に向き合う沢口の姿勢は、コントでも十二分に通用するものだった。

「私は沢口さんのことは大絶賛ですから」と笑う伊東は、「いつか悪役姿を見てみたい」と言う。

「その悪さは、最後の最後にわかるのがいい。それまでは普通のお嬢さんとかの役で、最後にえーってひっくり返るようなシチュエーションで(笑)。やらせたら上手いだろうなと思いますよ」

 前出の内藤も『科捜研』撮影の舞台裏では、マリコと沢口で違う印象を持つことがあるという。

「関西弁で喋る時はさばけていて、マリコとは全然違う。焼き鳥や焼き肉ではホルモン系が好きですよ(笑)。でもやっちゃんは本当に裏表がなくて、みなさんが思う沢口靖子そのものですね」

 変わらぬ清楚な美しさの陰で、演技と役への熱意は年々円熟味を増している。女優・沢口靖子の真骨頂は、実はまだこれからなのかもしれない。

※週刊ポスト2021年10月8日号

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