緊急事態宣言下で通勤ラッシュは少しやわらいでいた(イメージ、AFP=時事)
彼の会社は緊急事態宣言以降、変則的ながらリモートワークを導入してきた。いわゆる「ハイブリッドワーク」というやつだ。元々ネット関係が主要業務なので在宅で十分、会議はZoomで済むし連絡はメールやメッセンジャーで問題ない。なのに会社は10月1日から通常出社に戻した。
「夢のような日々でしたよ。作業を邪魔されないし私の機材スペックなら自宅環境のほうがいいです。休憩だって家のベッドでお昼寝できるし、好きな映画やスポーツだって観られる。ある程度の時間は遠隔で管理されましたが、それでも家で作業できる、まして通勤電車に乗らなくていいというのは大きいです。マスクもしなくていいし」
コロナ禍でも出社するしかなかったエッセンシャルワーカーの方々にシバかれそうな発言だが、彼の気持ちもわかる。リモートワークを経験した多くのサラリーマンも同じ気持ちではないか。自宅でゆったり仕事、満員電車に乗らなくていい、家にいるならマスクしなくていい、リモートワークバンザイという声は他の筆者の知人である会社員多数の声だ。その多くがITや出版といった情報産業だが、こうした企業は四六時中会社に出向く必要はなくなってきている。しかし会社によっては通常出社に戻している。どうしてか。
会社に集まらないとさびしい
「忠誠心かなあ」
筆者の先輩で小さな出版社と娯楽系のネットメディアを運営する社長が真顔で言った。コロナ禍でも普通に出社させているというのでもう酒が飲める焼き鳥屋で話を聞く。70代と世代で語るのは乱暴だが、まさに昭和脳である。
「社員の結束も必要だし、会社の輪というか、やっぱり会社に集まるのが大事でしょう。ここは日本、そう変わるもんじゃないよ」
理由になってないが彼は本気だ。真顔で腕組み。昔からそうだったが昭和オヤジはブレない。悪い意味で。いや、実のところ日本の会社のアップデートできていない企業の上層部には多いのかもしれない。しかし「そう変わるもんじゃない」は満員電車を見ればもっともだ。
「みんな来ないと俺もさびしいし」
最後に笑えない冗談をかましてくれた。「自分の会社だし好きにすればいい」とはいえ日本の企業風土、会社大好き社員の多くは疑似家族のように会社で長々と暮らしてきた。出版社は特殊かもしれないが、実際にアパートを引き払って会社に住む猛者もいた。彼もまた仕事が楽しいと同時に「一人は寂しい」だった。終わらない学園祭の準備のように会社に入り浸っていた。私も30代までは同じようなものだった。