テレワークの実施で人がいないオフィス。2020年12月[NTTコミュニケーションズ提供](時事通信フォト)
「ちょっと前までインフルエンザでも来いって会社だらけだった日本ですよ。変わるわけないでしょう」
別のIT系に勤める社員に話を聞く。彼もまた後輩だが、幸い10月に入ってもリモートワークが続いているという。しかしいつまで続くかはわからない。
「会社大好きな連中がいますからね。いまのままでも大丈夫なのに、コロナの感染者がこのまま少ない状態なら、来年からは通常出社になるでしょうね。社員は出社するのが当然って役員もいますし」
彼の会社でも上層部がこのままリモートを続けるか、通常出社に戻すかの話を始めたという。ネットで完結する企業の多くは難しい判断を迫られている。アメリカでもGoogleが2022年1月にオフィス勤務を再開すると発表した。変異株による新たなパンデミックが起こるかもしれず情勢は流動的だが、世界の最先端企業もウィズコロナにシフトしようとしている。いっぽうNTTなどはコロナ収束後もテレワークを基本とし、サテライトオフィスの設置や成果制度の強化で対応するとしている。いずれにせよ、会社に集まるか否かは世界的な「ウィズコロナ」に向けた課題となっている。生き残りを賭けた選択だ。
「在宅で仕事しても問題ないから在宅でいいのでは。これもまたウィズコロナでしょう」
こんなに急に戻るなんて
それぞれの会社の考え、それぞれの社員の考えがあるが、このコロナ禍は会社と人間の関係にも一石を投じる結果となった。そもそも会社に常に集まる必要があるのか、本社機能を安い地方に移す企業も続出している。東京と地方の2拠点化だが、リモートワークで済むなら企業も高いばかりの都心のオフィスはいらなくなり、多くの社員が集まる場所に山積する様々なコストを削減することができる。しかし旧来の「会社は家族」的な経営者なら、やはり前出の社長のように「全員集まってこそ会社」という個人的な考えでアフターコロナも昭和そのままの組織を維持するだろう。
「とにかく満員電車は嫌です」
多くの都市部のサラリーマンの本音はまさにこれだろう。往復2時間がザラの首都圏サラリーマンなら通勤だけで人生の多くを消耗することになる。そんなの当たり前と思うだろうが、コロナ禍のリモートワークのおかげでその当たり前の無駄に本当の意味で気づいてしまった。
「生産性も上がるんじゃないですかね、私としては以前より作業効率がいいんですが」
彼には申し訳ないが、レノボやアドビなど複数の調査によれば日本に限ると在宅勤務により生産性が下がったとする回答結果が出ている。他国は生産性が上がった、もしくは変わらないが大半だが、日本だけ突出して下がったとしている。結果より過程、つまり「仕事を頑張ってる度」というのを上司が実際の姿で判断する日本の根強い企業風土が影響しているのかもしれない。結果は出すが定時で帰る社員より、いつまでも会社に残って疑似家族として振る舞う社員のほうが上司の憶えめでたいという昭和の残滓がいまだに残っている。会社そのものがそうでなくとも、現場レベルに限れば多くの日本人、とくに高齢者は情緒的、情動的な評価を好む。表向きは違うが、実際の人事は好き嫌いで決まる。