ぽかんと呆気にとられた記者たちに向かって、落合は続けた。
「おまえら、最初だけフランス料理だかなんだかに連れていって、背伸びするだろう? そうじゃないんだ。いつものラーメン屋に連れていって、それでも笑ってくれる女と付き合うんだよ。そういう女を、稼いでフランス料理の店に連れていってやればいいじゃねえか」
落合はこういう話をするとき、いつも断定的な物言いをする。緊迫した空気を解いて、愉快そうに笑っている。
ところが、仕事や人生についての核心に触れるようなときには決して断定せず、答えを提示せず、無表情で問いだけを残していく。
(第4回へ続く)
【プロフィール】
鈴木忠平(すずき・ただひら)/ライター。1977年千葉県生まれ。日刊スポーツ新聞社を経て、2016年に独立し2019年までNumber編集部に所属。現在はフリーで活動している。著書に『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』(文藝春秋刊)など。
※週刊ポスト2021年10月15・22日号