出演俳優の豪華さも目を引いた (c)NHK
オダギリジョーがこうしたドラマを手がけることができた背景には、NHKとのコラボレーションという側面もあるようだ。SYO氏によれば、NHKに特有の制約さえ逆手にとって演出に転換していたという。
「オダギリさんは、本作で脚本・演出・編集・出演を兼任しています。放送直前まで“オダギリジョーさんが着ぐるみで警察犬を演じる”ことは伏せられており、大いに話題を集めました。さらに、ご本人も『遠いところにあるイメージだった』と語っていたNHKとのコラボレーションで驚かせました。
昨今のNHKドラマは“攻めている”と評されるように、『今ここにある危機とぼくの好感度について』等々、強烈な作品を連発しています。そうした流れの中にオダギリさんとのタッグがあったのは、非常に感慨深いものがあります。オダギリさんとつながりのある超・豪華キャストが揃ったのも、本人の人徳はもちろん、企画自体の面白さとNHKの尽力があってこそでしょう。
とはいえ、NHKだと“商品名や企業名などの固有名詞が難しい”といったような数々の制約もあります(例えば“シャーペン”もNG!)。オダギリさんの秀逸なところは、そこを単にカットするのではなく、モザイクをかけたりピー音を入れたりして演出のひとつにしてしまったことです。いわば“検閲が入った状態”を作品として提示することで、メタ的な要素を強めたのです。これはNHKとのコラボだからこそ生まれたものであり、変化球的な笑いを生み出していました」(SYO氏)
SYO氏が続ける。
「この作品が意義深かったのはコロナ禍でものづくりの楽しさを今一度教えてくれたことです。池松壮亮さん、永瀬正敏さん、麻生久美子さん、永山瑛太さんをはじめ、各出演陣のここまではっちゃけた楽しそうな演技というのは、なかなかお目にかかれません。
画面の端々から“ものづくりの喜び”がにじみ出てくるのは、役者がノッているから。彼らの心に火を付けられるのは、さすが生き様で魅せる俳優・オダギリジョーさんといったところでしょうか。視聴者にとっても、彼の壮大な遊びに乗っかり、大いに刺激を受けた全3回だったのではないでしょうか。表現の自由度を見せつけてくれた監督・オダギリジョーさんの次回作、そして『オリバーな犬』の続編も是非期待したいところです」
もちろん、定番のテレビドラマとして楽しみたい視聴者にとっては、なかなか受け入れがたい作品ではあったかもしれない。だが、そうした先入観を様々な角度から揺さぶる『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』は、“ものづくりの喜び”を伝えるとともに、これからのドラマや映画の可能性の一端を切り開いたとも言えるのではないだろうか。
◆取材・文/細田成嗣(HEW)
なんでもありの奇想天外なストーリー。続編の製作はあるか (c)NHK