生活習慣病の薬は飲み始めたら「一生の付き合い」と言われる。しかし、正しい“伴走者”の協力が得られれば、薬との付き合いはやめられるという。減薬診療で有名な大和田潔医師と、教壇に立ちながら全国の医師と連係して減薬に取り組む管理栄養士の早川麻理子・名古屋経済大准教授という断薬と減薬のプロが対談した。
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早川:栄養指導をしていると、患者さんは「食事や生活を変えたくないから薬が欲しい」という人と、「薬は飲みたくないから、できるだけのことはやりたい」という人の2種類に分かれますが、前者は少なくない。
大和田:高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣病は食生活の乱れと運動不足が主な原因ですが、そちらに目を向けず、「薬は魔法だ」と、医師も患者さんも薬を飲むことが治療になっています。
早川:運動はとくに軽視されがちですね。
大和田:糖尿病は、筋肉を増やすことで、インスリンへの応答を高め、血糖値を下げるので減薬しやすい病気の一つですが。
早川:しかし、コロナ禍で高齢者が外出しなくなっています。足の筋肉は1~2か月動かないでいると平気で1kg落ちます。
大和田:フレイル(加齢による虚弱)になる人が多いと聞いていますね。
早川:運動量と薬の量は逆相関にあって、いまの環境は薬への依存を増やしかねません。
大和田:それでも多くの医師は「食生活の見直しと運動をしなさい」と言うだけです。5分の指導でも30分の指導でも診療報酬は変わらないので。
早川:患者さんが不十分な知識でエネルギー制限や糖質制限をされて、悪化する話もよく聞きます。
大和田:いくら専門医とはいえ、薬を出すだけの医師よりも、しっかりした食事指導ができる管理栄養士と連携した指導のほうが減薬には確実です。
早川:大学の健康チェックに来た70歳男性はヘモグロビン(Hb)A1cが11%、血糖値は500mg/dlと振り切っていました。しかし、「自覚症状はないし、これ以上、医者にかかりたくない」とご本人の強い希望で、かかりつけの整形外科医が定期検査、私が栄養指導をすることになったんです。
大和田:専門医ならまずインスリン注射を始めたくなる数値ですね。
早川:畑仕事をしていたのでBMIは22と正常でしたが、三食に加えて、1日2回のおやつとジュースも飲んでいました。それでおやつをやめて、飲み物もお茶か水に変えました。それから、畑に行くのは必ず食後にしてもらいました。食後の運動は血糖値を下げるのに効果的です。
大和田:その後も糖尿病薬は使わなかった?
早川:はい。数か月でHbA1cが6%台まで下がり、今も元気に畑仕事をされています。
大和田:糖尿病の薬は対症療法であって根治するわけではない。食生活の改善や運動の方が大事なのに、処方された薬を飲んで数字がよくなると治った気がしてしまう。