10月16日に自民党山口県連から遠藤利明選対委員長に送られた文書
衆議院の比例代表は全国のブロックごとに名簿掲載の順位が当落を左右する。名簿の順位は党本部が決めるから、各都道府県連にとって地元の候補が上位に掲載されるかどうかは最大の関心事だ。とはいえ、特定の候補の公認決定に〈強く抗議〉し、別の候補の〈上位掲載〉を〈強くお願い〉するというのは異例のことだ。文書を出した責任者の岸氏は安倍晋三元首相の弟である。兄の安倍氏に近い杉田氏の上位掲載を、弟の岸氏が取り計らうという構図が透けて見える。
「生産性」問題の後も擁護した安倍氏
ここで〈上位掲載〉を〈強くお願い〉されている杉田水脈氏は、数々の差別発言で騒動を巻き起こしてきた。特に2018年に雑誌『新潮45』(新潮社)に掲載された寄稿の内容が問題視された。
「LGBTのカップルは子供を作らない、つまり『生産性』がない」
子供を産まないと生産性がないという。では子供がほしくても叶わない人はどうなるのか? 人の価値を生産性に置き換えるのは命の選別につながり、決して許されないというのが世界的な常識だ。この言葉に国内外から抗議が殺到し、自民党本部前では抗議のデモが行われた。『新潮45』は反論を特集したが、それがまた批判を呼んで遂に休刊に追い込まれた。
そんな杉田氏は兵庫県の出身で西宮市役所などに勤めた後、2012年に日本維新の会から立候補し比例代表近畿ブロックで初当選。次の選挙(2014年)で落選した後は慰安婦問題などで保守的な言論活動を展開。これが安倍晋三首相(当時)の目に留まり、自民党からの立候補につながったとされる。なぜ、出身地の兵庫ではなく縁もゆかりもない山口の県連に所属し、比例中国ブロックから立候補したのか。山口県内の政界関係者は語る。
「安倍さんが自ら“引き取って”山口県連に所属させた。当時の県連幹部は頭を抱えていましたよ。『総理の頼みだからなあ。断れんよ』と。ただ杉田さんはそれから熱心に県連幹部のところを回ったので、県連内ではウケがよくなった」
一連の騒動もあり、当然ながら自民党内には杉田氏に批判的な声が多い。それでもこの4年間、杉田氏が国会議員でいられたのは安倍前首相の後ろ盾があったからだ。前述の「生産性」問題の際も、現職総理だった安倍氏は「まだ若いから、注意をしながら、仕事をしてもらいたい」と擁護するようなコメントを出していた。
杉田氏は前回の選挙では中国ブロックで比例名簿「17位」。それより上位の16人は全員小選挙区との重複立候補である。中国地方は“保守王国”でほとんどの小選挙区で自民党候補が当選。比例復活は1人だけで、杉田氏はその次の順位で当選しており、比例単独では事実上の「トップ掲載」だった。