コロナ禍での外出自粛生活の中で、病院へ行くのを控える“受診控え”も多かったという。その“受信控え”で目立つのが、日本人の死因第1位である「がん」の検診だ。日本対がん協会(公益財団法人)の調査によると、全国32の支部が実施した5つのがん検診の2020年の受診者数は延べ約394万人で、前年比30.5%の大幅減だった。
各自治体の調査でも同様だ。長崎市でも昨年、5つのがん検診の受診者数が前年比約1割程度減少した。
「長崎市はがん検診を積極的に進めている自治体ですが、昨年はコロナ禍で受診・検診控えが目立ちました。肺がんは4%減と減少率が小さかった一方、子宮がんや乳がんなど、医師との接触が多い検査が特に低下した。コロナの影響が強く感じられます」(長崎市健康づくり課・森洋二課長)
受診控えにより、大腸がんの発見が遅れている実態も浮き彫りになった。横浜市立大学の研究グループが、昨年までの4年間にがんと診断された患者5100人余りを分析したところ、ステージ3(リンパ節に転移した状態)の大腸がんがコロナ以後は約7割増加したという。反対に、早期(ステージ1)発見は3割以上も減った。
これらのデータは、受診控えによる「隠れがん患者」が全国に多数いることを示唆している。
平時から、がん検診には「見逃し」「誤診」のリスクがつきものだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が言う。
「多くのがんはいかに早く発見できるかが生死を分けるポイントですが、がん検診を担当する医療機関や医師の能力次第で、見落としや誤診もある」
実際にどのようなリスクがあるのか。がんの部位別に検証していく。
肺がんのレントゲンに「死角」
コロナ禍で発見の遅れが問題視される「大腸がん」。国が推奨していることから、各自治体が行なう集団検診では、「便潜血法」が主流だ。
大腸内でがんが発生すると、便が接触して出血することがある。便潜血法は検便により出血の有無を確かめる簡便な検査だが、スクリーニング目的で行なわれるため、“陽性”でも実際の罹患率は1%程度と低い。痔などがん以外による出血が紛れることが多いためだ。
一方、宮崎善仁会病院消化器内科の押川勝太郎医師は、「便潜血法では3割強の大腸がんに陰性反応が出るとの研究結果がある」と指摘する。
「便潜血は2日連続で便を取る『2日法』が行なわれます。2日陰性なら大丈夫だろう、という考えです。しかし、『便潜血異常なし』の結果はがんが存在しないことを保証するものではない。陰性だからと安心してしまい、数年間検査をせずにがんを進行させてしまった人もいます」(押川医師)