強い殺意は、複数の刃物を所持し、放火するために揮発性の高い油まで準備していたことからも明確だろう。その上で、家族全員が確実に自宅にいる深夜を犯行時間に選んだのだ。
「失恋の心の痛みは、通常ほかの女性を好きになったり、仕事や家庭環境の変化に目を向けたりして徐々に癒されていくものです。高校生ならば、勉強や部活動でしょうか。しかし、Aの場合はすべてをこの“片思い”に懸けるほど視野が狭まっていた。その先の人生や相手の人格に想像が及ばず、相手を殺すという短絡的な発想になってしまった。結果として、その家族は、“邪魔者”としか認識できなかったのでしょう」(社会心理学者の碓井真史氏)
Aの身勝手な犯行は、社会的にも大きな関心を呼んだ。一体どんな人物なのか、何がAを駆り立てたのか—だが、そこには「少年法」という高い壁がある。Aを送検する警察車両には分厚いカーテンが張られ、警察はAに関する情報の一切を抑えている。刑法学者の諸澤英道氏が説明する。
「少年法は、“罪を犯しても、少年には更生できる余地がある。だからやり直しを認めるべきだ”という保護主義の考えに立っています。戦後、改正を重ねるごとにその色合いは濃くなっている」
現行の法制下では、14才未満は刑罰を受けず、18才未満ならば死刑を科されない。18才または19才は成人と同様に処罰されるが、「実名」は報道されない。それらはすべて、「更生できる余地があるから」という考え方による。たとえ今回の事件を起こしたAのように、明確な殺意のもと、凄惨で非道な行いをしたとしてもだ。