スポーツ

名将・野村克也が見抜いていた「高津にあって矢野にないもの」

ノムさんのもとで投手として開花した高津(時事)

ノムさんのもとで投手として開花した高津(時事)

 プロ野球セ・リーグは、シーズン前半から阪神が独走し、それを巨人が追う展開だったが、五輪後は阪神が失速、ようやく盛り返してきたら今度は巨人が失速し、その間隙をついてヤクルトがスルスルと首位に躍り出るという波乱のペナント争いだった。最後の最後に2強をまくったヤクルトは、若手とベテラン、投手と野手の歯車がガッチリと噛み合い、1990年代に名将・野村克也のもとで日本一を達成した黄金期を彷彿とさせる雄姿を見せた。

 奇しくも、最後に優勝を争ったヤクルトの高津臣吾・監督と阪神の矢野燿大・監督は、ともに野村氏の教え子だった。高津氏は黄金期のヤクルトで、野村氏の指導で身につけた伝家の宝刀「遅いシンカー」を操って不動のクローザーとして活躍し、矢野氏は阪神監督となった野村氏から、キャッチャーとして試合全体を見る目を教え込まれた。

 2019年のオフ、高津氏がヤクルト監督に就任した時、矢野氏はすでに監督1年目を終えていたが、それから2年後に2人が優勝を争っている姿を予想する関係者は多くなかった。しかし当時、2人の師匠である野村氏は2人の成功を予測し、同時にそれぞれの良さと欠点を見抜いていた。週刊ポストの取材で語った秘蔵の「ノムさん節」を公開しよう。

 * * *
 野村チルドレンと呼ばれる監督たちがペナントを戦う。悪い気はしないね。教え子たちが出世してくれることはうれしいよ。高津は就任会見で私について、「野球の難しさ、奥深さを学んだ」とコメントしてくれた。ただ、この世界はすべて結果。結果よければすべて良し。結果を出せば評価されるが、負ければ「野村のモノマネ」と批判されるだろう。その一方で、名将の条件は勝つことではない。結果が出るまでのプロセスが大事なんです。

 信は万物の元をなすというが、名将になる唯一の条件は選手やコーチから信頼されること。監督が信頼されなければチームづくりはできません。そして、一度できた信頼はなかなか崩れない。監督が選手より一歩も二歩も前を歩いている、それが真のリーダーの姿です。

 高津は投手出身だから、投手交代のタイミングがわかるという利点はあるが、基本的には投手出身の監督は視野が狭い傾向がある。現役の時には打者と捕手しか見ていないから、野球をいろいろな角度から見るという習慣がない。人気者だったから監督になったカネやん(故・金田正一氏)がいい例でしょうが(笑)、細事小事に目が届かない。

2019年のドラフトで阪神と競合して獲得した奥川はいまや大黒柱の活躍(時事)

2019年のドラフトで阪神と競合して獲得した奥川はいまや大黒柱の活躍(時事)

 しかし、高津は選手から人気がある。私の教え子では珍しく人間性が良いのではないかな(笑)。野球を知っているかは疑問だが、二軍監督からスタートしたのはいい。大いに期待しています。ヤクルトの監督は宮本慎也がやるものだと思っていたが、宮本は野球はよく知っていて、言うこともすべて正しいが、歯に衣着せぬ言い方だから誤解されやすいのではないかな。今の世の中では、相手が傷つくようなことはあまり言わんほうがいい。

 阪神の矢野には捕手出身という大きな武器がある。日本一になった監督には捕手出身が多いでしょう。上田利治、森祇晶、野村克也……、まあ田淵幸一と大矢明彦がぶち壊してしまったが(笑)、矢野はいい監督になる要素があるね。

 捕手は試合で監督以上のことをやっている。筋書きがないドラマと言われる野球の筋を書いているのが捕手。データを駆使し、打者の見逃し方やスイングを観察し、洞察し、判断し、決断するという作業を1球ごとにやっています。だから監督になると、その経験がベースとなって采配を振るう。あとは人間的な部分で選手からどれだけ慕われるかです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
綾瀬はるかが結婚に言及
綾瀬はるか 名著『愛するということ』を読み直し、「結婚って何なんでしょうね…」と呟く 思わぬ言葉に周囲ざわつく
女性セブン
強く、優しく、凜とした母を演じる石田ゆり子(写真/NHK提供)
《『虎に翼』で母親役を好演》石田ゆり子、プロデューサーや共演者が驚いた“愛される力”「ストレスかかる現場でも動じない人」
週刊ポスト
「夢みる光源氏」展を鑑賞される愛子さま
【9割賛成の調査結果も】女性天皇についての議論は膠着状態 結婚に関して身動きが取れない愛子さまが卒論に選んだ「生涯未婚の内親王」
女性セブン
羽生結弦のライバルであるチェンが衝撃論文
《羽生結弦の永遠のライバル》ネイサン・チェンが衝撃の卒業論文 題材は羽生と同じくフィギュアスケートでも視点は正反対
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン