ただ、矢野には気になるところもある。天才的な選手だった監督によくある欠点は、自分が天才だから野球に哲学がなく、監督になっても目の前の試合に一喜一憂してしまうこと。味方がホームランを打つと真っ先にベンチを飛び出してくるとかね。それと同じことをやっているのが矢野だ。試合中に白い歯を見せ、選手と一緒になってバンザイする。そんなところで選手と一体感を持ったところで、本当の信頼は得られません。
逆転すれば監督として「よし」とは思うが、むしろ「このあとどう守るか」と先のことが気になるはず。喜ぶのはゲームセットの声を聞いた時で、それまでは喜んでなんかおれないのが監督というものなんです。
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野村氏は今年のペナントレースを観ることなく、昨年2月にこの世を去った。改めて2年前の予言を見ると、草葉の陰で「見てみい、ワシの言ったとおりやったろう」と、ニヤリとしている顔が浮かんでくる。