結局、バイト生活
前出・吉田さんが、ため息交じりにこう語る。
「私は市の公務員だったのですが、保健所に出向している時に、自分より若い上司がやってきた。その人が医師免許を持っていたということもあり、資格というものの権威にやっかみ半分の憧れがあったのです。
同級生の言葉にも背中を押される格好で50代後半で税理士に挑戦し、60歳でめでたく合格したのですが、公務員を退職するのと同時に退職金と貯金をつぎ込んでマンションを購入したのです。将来的にここを税理士の事務所にしようという計画でした。
ところが思うように仕事は見つからない。今は近所の福祉施設で週に3回のアルバイト生活です。うちは子供がいないからなんとかやっていますけど、女房からは“なんでマンションなんか買ったの”と嫌味を言われる毎日です」
東京都大田区在住の大塚圭吾さん(仮名・57)も理想と現実のギャップに苦しめられている。
「毎日コメツキバッタのように頭を下げ、上司や営業先に媚びを売りまくるサラリーマン生活に嫌気が差して、不動産鑑定士の資格に挑戦しました。独立するなら不況に強い不動産関連がいいと友人に薦められたからです」
不動産鑑定士の業務は公示地価や都道府県地価の調査など公的な機関が相手になることが多いので収入が安定している。資格学校のパンフレットにはそう書かれていたという。大塚さんは輝く未来を夢想しながら励んだ。
「仕事を続けながら4年かけて資格の勉強をし、56歳でめでたく合格したのはいいのですが、すぐに退職届を出してしまったことを今でも悔やんでいます。
独立したての頃は友人・知人の紹介で仕事にありつくことができたのですが、そうしたハネムーン期間が過ぎると、自分自身で営業しなければならない。そうなってみてはじめて、仕事を取るためにはサラリーマン時代以上に頭を下げなければならないという現実を知りました。
役所や知人の会社に出かけて頭を下げ、媚びを売りまくる日々。退職前の思いとは正反対の毎日に絶望し、結局不動産鑑定士としての収入はゼロになってしまいました。今では小さな不動産屋に再就職して細々とやっています」