23区全体の空室率は極端に高いわけではない
都心の新築ビルには、「都心の一等地にオフィスを構えられる」というステータス感とともに、最新のIT技術を享受でき、セキュリティ面も万全などといったメリットがある。しかし、IT技術の進歩によって、既存ビルでも一定の投資によって新築ビル並みのIT化が進められるようになっている。
コスト面を考慮すれば、賃料の高い新築ビルに移らなくても、既存ビルでリフォームするほうが安くつくという考え方をする企業が増えているといわれる。そのため、都心の新築ビルへの一極集中、IT分野における渋谷への一極集中の動きが弱まり、東京23区の各エリアへの平準化が進んでいる。
東京23区という広い視野でみれば、空室率が高いわけではない。別掲図3は、森ビルが東京23区のオフィスの供給量、吸収量、空室率を調査した結果を示しているが、2020年の空室率は4.0%という結果だった。
たしかに、2019年の1.8%からは上がっているが、過去の推移をみると、4.0%という水準はさほど高いものではなく、7%台、8%台の時期に比べるとむしろ低いレベルにとどまっているという見方もできる。
【図3】東京23区オフィスの供給量、吸収量、空室率の推移(出典:森ビル『東京23区の大規模オフィスビル市場動向調査)
都心から周辺エリアへの分散が進む
実際、オフィスの供給エリアには大きな変化が起こっている。これまでのオフィスビル供給の主要エリアだった丸の内・大手町エリア、赤坂・六本木エリア、渋谷エリアの供給は減少気味であり、今後は別掲図4にあるように、虎ノ門エリア、日本橋・八重洲・京橋エリア、田町・浜松町エリアなどに中心が移っていく見込みだ。
なかでも、“日八京”と呼ばれる日本橋・八重洲・京橋エリアでは、東京ミッドタウンの3棟目である「東京ミッドタウン八重洲」、三菱地所が開発を進める高さ390mで、日本一高いビルとなる「トウキョウトーチ」の建設が進んでおり、丸の内と並んで東京駅のもうひとつの顔になる可能性がある。
2027年度に東京駅日本橋口前に誕生する日本一高いビル「トウキョウトーチ」(時事通信フォト)
この平準化によって都心の空室率が高まっている面があり、東京23区全体でみればオフィスニーズが減少しているわけではない。
【図4】2021年~2025年の主要ビジネスエリア別供給量(出典:森ビル『東京23区の大規模オフィスビル市場動向調査』)