これと対照的なのが、『護られなかった者たちへ』での幹子役の演技だ。社会派サスペンスとあって、本作では誰もが重々しい演技に徹しており、清原も笑顔をほとんど見せない。ストレートなセリフで視聴者に分かりやすく物語を伝える朝ドラとは異なり、より目や表情で幹子という女性の内面を訴える演技が印象的だ。感情をストレートに口にできる瞬間はごく限られており、その分周囲の者たちの言動や一挙一動に対する幹子の壮絶な表情やリアクションがより際立っている。映画の作りとしても彼女の顔の動きを丁寧に捉え、否が応でも注目せざるを得ない。
特に釘付けになったのが、社会的弱者である“護られなかった者たち”や、“理不尽な状況に晒される者たち”を前にした時の彼女の反応だ。清原はその際に見せるリアクションで、幹子がどんな人物なのかを鮮烈に観客に示していたと思う。また、彼女が福祉に関わる人間として、生活保護を受ける人々に親身に寄り添い、時に厳しく接する姿も印象深い。千原せいじ(51才)演じる不正受給者に対し、明らかな怒気を含んだ声音で詰め寄っていくシーンの清原には強い気迫を感じた。演じるキャラクターの性格が異なるとはいえ、『おかえりモネ』では見せなかった姿だろう。
2つの作品を見て驚くのは、既に口コミなどでも話題になっているように、モネと幹子の年齢が近く、同じ時代の近しい土地を舞台とした作品で、これほど大きく異なる人物像を立ち上げられる清原の演技力だ。作風やテーマ、置かれている環境の違いはあるが、清原の演じ手としての力量を改めて知る機会となった。
半年間も放送される朝ドラへの出演は、俳優は1つの役に向き合い続けることになるし、毎朝目にする視聴者もその俳優に対して役のイメージが定着し、良くも悪くも役者の演技に食傷気味になることもあると思う。しかし清原は、モネの真っ直ぐで明るく、心優しい“清純派”なイメージとは真逆とも言える幹子役の演技でモネのイメージを大きく覆し、どんな役にも染まれる新鮮味を与えたと思う。これは『護られなかった者たちへ』の公開が延期になったことによるタイミングもあったと思うが、清原には「延期」という逆境を追い風にすら変える資質まで備わっているように思えてならない。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。