国内

心に刻んでおきたい瀬戸内寂聴さん「おじさんの魂を救ってくれる言葉」

さまざまな経験をもつ

著作は400冊を超える

 波乱に満ち、熱情にあふれ、そして多くの人々を支え続けた人生だった。瀬戸内寂聴さん死去の報にコラムニスト・石原壮一郎氏が綴る。

 * * *
「愛した、書いた、祈った」

 9日に99歳で亡くなった作家で尼僧の瀬戸内寂聴さん。名誉住職を務める岩手・天台寺に自分で購入していた墓石には、こう刻むと決めていたとか。まさに、この言葉がぴったりの波乱万丈で情熱に満ちた人生を送りました。

 作家としての功績は言うまでもありませんが、忘れてはいけないのが、法話や著書を通してたくさんの悩みに答え、迷える子羊を救ってきたこと。誰にも真似できない濃密な人生経験に基づいた忌憚のない回答は、読者の心を激しく揺さぶりました。

 何を隠そう人生相談本コレクターである私の本棚には、寂聴さんが悩みに答えている本が多数あります。そこから「おじさんが心に刻んでおきたい、おじさんの魂を救ってくれる言葉」を探してみました。

 まずは【会社が自分を評価してくれません】という40代男性からの相談。勤めて11年になるが、上司に恵まれず、評価もされず、毎日悶々と暮らしているとか。寂聴さんは、かつて「子宮作家」「エロ作家」といったレッテルを貼られた自らの悔しい体験を語りつつ、こうアドバイスします。

〈(自分も)そういわれた当初はたしかに傷つきもし、腹も立ちましたが、しかし私は小説を書きたくて書いているのであって、世間から褒められたくて小説を書いているわけではないと思い直してからは、そういう無責任な批評は気にならなくなりました。(中略)幸い、あなたには支えになってくれる優しい奥さんがおられるのだし、仕事に使命感を持ってもおられるようですから、馬鹿な上司の評価などは気にせず、自分に与えられた仕事を淡々とおやりなさい〉(集英社インターナショナル『寂聴辻説法』2010年刊)

 さらに「そうやってやり過ごしていけば、私のようにいつか風向きが変わる日も来るのではないでしょうか」とも。おじさんの大多数は同じ悩みを抱えていますが、他人の評価に一喜一憂することの無意味さや虚しさを教えてくれています。

 2つ目は【浮気を責められ地獄の境地です…】という46歳男性からの相談。「たった一度の浮気を女房に責められ、子供たちからも白い目で見られ、地獄の境地です」とのこと。寂聴さんは、あきらめずに話し合うことを勧めつつ、こうアドバイスします。

〈でも私には、あなたがそんなに後悔しているのに奥さんが許さないというのも、ずいぶん頑固な情のこわい人だと思えます。でもここのところは、奥さんの欠点などは一切目をつぶってひたすら誠意を見せて謝りなさい。それも別れると言い張るなら、そんな女、別れてしまいなさい〉(文化出版局『寂聴相談室 人生道しるべ』2000年刊)

 こっちに非があるからといって、際限なく非難してくる相手も相手である――。卑屈になり過ぎず、そのぐらいのスタンスでぶつかるべしと寂聴さんは励ましてくれています。「誠意を見せてもダメなら諦めよう」と腹を括ることでしか、事態は前に進みません。

 続いては【借金苦の兄に泣かされ続けて】という44歳男性からの相談。今まで何度も貸しているけど、一度も返してくれたことはないとか。「また五十万貸してくれと頼まれています」と悩む相談者に、寂聴さんは「貸さずに、(無理のない額を)あげるんです」と言います。一般論として、お金を貸すと人間関係は必ず壊れるとも。

〈目の前に苦しんでいる人がいれば(中略)、思わず手を出して助けるじゃありませんか。そういう気持ちでお金を出すならいい。でも、それができないなら、「してあげる」と偉そうなことをいわないで、「私はできない。私はそれもできないだめな人間です」と引っ込めばいいんです〉(NHK出版『瀬戸内寂聴の人生相談』2002年刊)

 つい「いいカッコ」してしまうのがおじさんのサガ。無理に背伸びをすると、自分の首を絞めることになります。「引き下がる勇気」の大切さを胸に刻みましょう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
綾瀬はるかが結婚に言及
綾瀬はるか 名著『愛するということ』を読み直し、「結婚って何なんでしょうね…」と呟く 思わぬ言葉に周囲ざわつく
女性セブン
強く、優しく、凜とした母を演じる石田ゆり子(写真/NHK提供)
《『虎に翼』で母親役を好演》石田ゆり子、プロデューサーや共演者が驚いた“愛される力”「ストレスかかる現場でも動じない人」
週刊ポスト
「夢みる光源氏」展を鑑賞される愛子さま
【9割賛成の調査結果も】女性天皇についての議論は膠着状態 結婚に関して身動きが取れない愛子さまが卒論に選んだ「生涯未婚の内親王」
女性セブン
羽生結弦のライバルであるチェンが衝撃論文
《羽生結弦の永遠のライバル》ネイサン・チェンが衝撃の卒業論文 題材は羽生と同じくフィギュアスケートでも視点は正反対
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン