「“みんな、本当にお世話になったね。さようなら”って言って、パタッと“その時”を迎えたい」と語っていた

「“みんな、本当にお世話になったね。さようなら”って言って、パタッと“その時”を迎えたい」と語っていた

 10代に向けて書かれた『97歳の悩み相談』(講談社、2019年刊)の中にも、おじさんに響く言葉がありました。【仲良くできる友だちがいません】という16歳女子の悩みに対して、寂聴さんはこんな言葉を贈っています。

〈相手に多くを求めすぎないことです。人に愛情を与えたら、自分だってもらいたい。もらうために与える。そういう気持ちではいけません。みんな、してもらいたい気持ちばかりが多くて、相手に求めてしまう。向こうが優しくしてくれたら、もっと優しく、もっと優しくしてほしいと思う。人間関係はそれではうまくいきません〉

 職場での人間関係や夫婦関係にも、同じことが言えるでしょう。「友だちに仲良くしてもらいたいと思うより、自分のほうから相手に何かをしてあげるほうがいい」とも。

 寂聴さんは「死」をどう考えていたのか。悩み相談も多数収録されている本『いのち発見』(講談社、1996年刊)には、作家の五木寛之さんと当時72歳の寂聴さんが、「死」をテーマに語った対談が収められてています。寂聴さんの印象的な言葉を拾ってみました。

〈人間は全部死ぬんですもの。死ぬために生きているんですもの〉

〈今は、私の好きな人が全部あっちに行っているんですもの。だから、向こうへ行ったら、『遅かったね』なんて、その晩、歓迎会をしてくれるんじゃないかと思ってね〉

〈私はもう向こうでいいな。嫌なこの世に還ってきたくないんじゃないですよ。私は、この世でしたいことを全部したから、もうあの世の方がきっと面白いと思って、あの世で、またいろいろな変わったことをしてみたい(笑)〉

 寂聴さんが旅立ったのは、この対談から27年後でした。「歓迎会」の参加者はさらに増え、「どんだけ待たせるんだ」と大いに盛り上がったことでしょう。そしてこれからは、あの世で「いろいろな変わったこと」をたくさんして、あの世の面白さを存分に満喫なさるに違いありません。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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