岡田将生

作品ごとに話題になる

 岡田が本作で演じている越智真司という青年は、まさに“小物”と言うに相応しい。閉じ込められた面々とすぐに打ち解けられる性格の持ち主だが、臆病でパニックに陥りやすく、変化していく状況に適応できず悲観的で、大げさに騒ぎ立てるような人物だ。彼は、自分が世間から疎まれているという意識を持っており、何事も上手くいかないのは社会のせいだと思い込んでいるフシがある。状況が状況のため無理もないことかもしれないが、情けなく喚き散らしたりすることもしばしばだ。気の良い青年かと思いきや、ここでの岡田の演技の転換が見事だ。越智が取り乱し狼狽するさまを、声の“大小高低”を自在に操り、事あるごとに変化する彼の心情を表現しているのである。

“小物キャラ”は、岡田の得意とする役どころではないだろうか。今年で言えば、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)で演じたひねくれ者の弁護士役や、Bunkamura・シアターコクーンにて上演された舞台『物語なき、この世界。』で演じた“口先ばかりの売れない役者”役などがまさにそう。後者の作品のクライマックスで、内田理央(30才)演じる恋人にお尻を蹴り上げられ、高音ボイスで絶叫する姿は強烈に印象に残っており、「この状況であれば、誰だって彼のように泣き叫ばずにはいられないだろう…」と思わせるほど、等身大で非常にリアルなものであった。今作で演じる越智という役もこれまでの系譜に連なるもので、岡田だからこそ生み出せたリアリティがあると思う。

 しかし、観客が本当の意味で岡田に驚かされたのは、その“豹変ぶり”。極限状態の中で自制が効かず、ある瞬間を機に狂ったように“キレる”のだ。とはいえそれは、大暴れするようなものではなく、あくまでも淡々としている。ただ、彼のやることが度を超えているのだ。この淡々としたキレ方は、いかに越智が普段から不満を抱え込んでいたのかが感じ取れるスリリングな演技だった。

 自制ができない若者の役は、カンヌ国際映画祭で4冠を獲得した映画『ドライブ・マイ・カー』での岡田の演技も記憶に新しい。“小物キャラ”に“キレキャラ”と、今年大活躍の岡田の得意とする役どころが、本作では全面的に出ているのだ。ともすると、この手のキャラクターは“悪目立ち”しかねない。だがそうならないのは、監督の演出や編集に依るところも大きいのだろうが、やはり岡田自身が体得した独特の“ペース配分”のようなものが優れているのだと推察する。称賛の声にも納得だ。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン