(時事通信フォト)

スイッチが切り替わるように表現を変える(時事通信フォト)

 羽生が大山の前に座り向い合うシーンでは、画面に向けられているのは綾野さんの右顔だが、左顔には窓からの光が当たっている。そのため右より左側の表情がはっきり見える。巧みな演出だ。目の大きさや形は左右対称ではないし、白目の大きさも右と左で違う。そのせいもあるが、綾野さんの左側に光が当たることで、羽生が抱える泥のような怒りや憎しみ、「命を賭けてでも」という腹の据わった感じが目の表情からも伝わり、左の片頬がわずかに上がることで相手への嘲りも見える。左側の表情が絶妙で、右左が微妙に違うことで、不気味さや今にも切れそうな凶暴さが増してくる。

 表情には左右差がある。感情が露わになりやすく、本音が出やすいのは顔の左側だという。感情を見せまい、隠そうとする時、人は無意識に顔の右側を相手に向けることが多く、反対に気持ちを伝えたい時や感情を露わにしたい時は、左側を向けやすいという。また、心理学のある実験では、裏切り者は左頬を巧みに使って笑うという結果がある。

 羽生に対峙して座る大山はというと、画面に左頬を向け、目は笑っていないのに、頬を持ち上げ巧みに笑顔を作る。左頬を強く引き上げ、信頼を得られるように振る舞うのだ。渡部さんの演技で大山の冷徹さや非情ぶりがよく伝わってくる。羽生はその笑みから大山の本性を見抜くのだ。

 シーンをより印象的に、演じる俳優の表現をより効果的に見せるためだろう。ドラマの中では、右側と左側からの映像が上手く振り分けられている。だが、それ以上に俳優の演技が上手くなければ、その効果は上がらないだろう。

 ここにきて死んでいたはずの仲間が生きていたという驚きの展開も見逃せない『アバランチ』。綾野さんの右顔と左顔の表情の違い、右目と左目の感情の違いにも注目しながら、最終回まで楽しみたい。

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