小田急「ロマンスカーミュージアム」(時事通信フォト)

小田急「ロマンスカーミュージアム」(時事通信フォト)

 長らく小田急ロマンスカーのイメージリーダーだったのは、1987年に登場した10000形HiSE(=High Super Express)だ。名車の誉れが高い同車は小田急から引退した後も、その人気の高さから長野電鉄に引き取られるほどだった。長野電鉄へ移籍したHiSEは短編成に改造されて、現在は特急「ゆけむり」として活躍中している。

 HiSEは、運転士気分が味わえる前面展望が最大のウリでもあった。しかし、時代とともにロマンスカーはビジネスでの利用者が増えた。そのため、小田急は1996年に新登場させた30000形EXE(=Excellent Express)で前面展望を廃止。「小田急ロマンスカーといえば前面展望」というイメージが定着していた沿線住民・観光客・鉄道ファンからは、失望の声が漏れることになった。

 実際、鉄道友の会が毎年優れた車両に対して授与されるブルーリボン賞は小田急ロマンスカーの独壇場だった。小田急ロマンスカーの新車は同賞を総なめする勢いだったが、EXEは受賞を逃している。

 しかし、小田急は2005年にVSEの運行を開始。VSEは、18年ぶりに前面展望を復活させた待望のロマンスカーだったこともあり、またたくまに高い人気を得る。

 VSEは前面展望を復活させただけではなく、側面の窓もワイドにし、座席を外側に5度ほど傾ける工夫も凝らした。これらの工夫により、箱根路を走るロマンスカーから雄大な景色を楽しめるようになっている。

 また、VSEはハード面だけではなく、ソフト面にもこだわった。VSEではグラスに入ったドリンクや温められた料理などを自席まで持ってきてくれるシートサービスも復活していた。ところが、VSEでウリとなっていたシートサービスは、2020年3月に終了。この時点でVSEの帰趨は決まっていたのかもしれない。

引退後のロマンスカーVSE車両はどこへ?

 いまだVSEより古い車両のロマンスカーが走っているにもかかわらず、なぜVSEは先に引退してしまうのだろうか?

「VSEの車体はアルミ合金押出形材でダブルスキンという特殊な構造です。古い車両は部品の調達などが困難ですが、特にVSEは部品の調達のみならず修理にも手間がかかってしまうことが引退の理由です。VSEよりも古いEXEは車体が鉄製なので、あまり修理に高度な技術・経験が必要ありません。そうした手間がかかることから、VSEはEXEより早く引退することになったのです」(同)

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