甘粛省にある肉用牛飼育地域(イメージ、CFoto/時事通信フォト)

甘粛省にある肉用牛飼育地域(イメージ、CFoto/時事通信フォト)

アメリカ−中国航路がドル箱。日本の港に寄るのは無駄

 2021年12月、日本ハム、伊藤ハム、プリマハムの食肉加工大手はついに値上げを発表した。そしてはっきりと幹部は「買い負け」を認めている。食肉に限らずあらゆる海外依存は「買い負け」だ。アメリカやEUはもちろん、とくに中国に勝てない。

「中国に勝つなんて冗談、現場で買いつけていればその強さはわかりますよ。私の入社したころに比べて日本は弱くなったなあと感じます。むしろ競争相手は東南アジアや南米です」

 もちろん今回の話は「食料に限れば」という前提だが、日本の現状はいかにこの両大国の「余りもの」を分けてもらうか、「取りこぼし」を狙うか、と言っても過言ではない。それは半導体や建材、樹脂など他の「買い負け」と同様である。

「それぞれの国にも国内消費分がありますから全部売るわけにもいきません。その輸出分がアメリカや中国に取られるとなれば余り分を狙って調達するとか、金を出せない分いろいろ手は使います。各国の取り決めも違いますから一概には言えないのですが」

 彼の言う通り、この話は非常に煩雑で個々別の品目や国情、時事に左右されるため「必ず」は存在しない。バイヤーの動向なども含め個々の細かい話は端折るが、あくまで「買い負け」の一点で話を聞いている。その買い負けの代表格、牛肉でみると中国はブラジル、アルゼンチン、ウルグアイなど南米の他にニュージーランド、直近ではアメリカからも輸入を強化している。南米は中国の牛肉輸入の生命線で近年はチリやコスタリカからも輸入している。

 もちろん中国にも大規模な牛の肥育施設は存在するし、広大な土地を生かした繁殖農家も存在する。古く中国は文化的にも牛肉をほとんど食べなかったため、出回る牛肉といえば農耕などに使い終えた廃用牛が多かった。それが、国民が豊かになると牛肉を食べるようになり、飼育コストや輸送コストも上がったために輸入に頼るようになった。

「冷蔵、冷凍の牛肉はもちろん、生体で運ぶ分もあります。一度に船だと2000頭くらい、飛行機で400頭は運べますね。生体牛は中国国内で屠畜するんですが、需給バランスの難しい冷凍牛肉より生体のほうが自国で解体できますから、しばらく飼ったり屠場に送ったりの需給調整がきくんでしょうね。広大な国土、鮮度も重要ですし」

 肉はみんな冷凍や冷蔵で加工されて運ばれてくるイメージがあるが、実際は生体、要するに生きたまま船や飛行機で運ぶケースも多く、世界では年間500万頭近くの牛が海や空で生きたまま運ばれ食卓に並ぶ。牛の生体そのものの輸入量は中国に比べて少ないが日本も例外ではない。何気なく食べているどんな食べ物も市場という戦場で買い勝った戦利品だ。

 その戦場で「何でも食べちゃう」14億人の大国、中国が猛威を奮っている。それも20世紀の中国と違い、政治力と軍事力はもちろん潤沢な資金を背景に世界中から買い漁っている。肉も魚も油も豆などの食材だけではなく半導体、建材からウレタン、ゴム、プラスチックなどありとあらゆる素材やその原料まで「買い勝ち」している。

「他にはアメリカですね。中国に負けじと買い漁って覇権を争ってます。このアメリカと中国の航路がドル箱路線で船がそのルートしか通りたがらない。これからもっとひどくなるでしょう。日本の港に寄るのは無駄と言われかねません」

 まさに世界は食料戦争という戦時下、日本人にその自覚はあるのだろうか。

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