実際、ジワジワと食品の価格は上がり、値段据え置きでも中身の減る「ステルス値上げ」も増えている。とくに菓子類、ポテトチップスなどは顕著でちゃんと内容量の表示を見なければ「こんなに少なかったかな」と驚かされる。
「でもね、それもこれも日本の買い負けは円安のせいだと思ってます。強い円の力で引っ叩いて買い勝って言うこと聞かせてたのに、いまの日本で通貨が安いって怖いことですよ。通貨の安さにも良し悪しありますから」
日銀の黒田東彦総裁は2021年12月23日、経団連の会合で「円安はメリットが大きい」と語った。どうだろうか、かつては円安のメリットがあったかもしれないが、輸出企業だって結局のところ燃料や原材料、部品の多くは海外から調達しなければ製品を作り輸出できない。そもそも非製造業の大半にとって円安はデメリットのほうが大きい。日本はかつての輸出一辺倒の国ではない。しかし日銀はいまだに円安容認。じつは本稿、この件でA氏が怒って連絡してきたことに端を発している。
「いまの円安は悪い円安だと思います。もちろん強い国が自国通貨を操作、調整することはあります。人民元なんてまさにそれです。日本だってかつてはそうでした。でも現在の円安は日本の国力そのままの評価だと思っています」
現場で、現地で買いつけている彼にすれば後ろ盾となる通貨が安いことは不利。多くの日本の一般国民も物価高、まだ一部とはいえ報道される品薄に不安を感じていることだろう。
食料の奪い合いも戦争、その戦争の感覚がないのが日本
「いま中国は日本の和牛にも目をつけています。とくに富裕層に人気があります。カンボジアもいいけど日本の和牛を食べたいってね」
あまり知られていないが和牛はアメリカ、オーストラリアや東南アジアなど多くの国で生産されている。とくにカンボジアは中国にとって和牛の供給源、金に目のくらんだ徳島県の畜産農家が和牛の精子や受精卵を中国に持ち込んでいた件で2019年に逮捕されたが、いまさらな話でカンボジアの他にベトナムやラオスでも中国主導で和牛の生産が行われている。そもそも技術協力と称して日本人専門家も呼んでいる。すべて金の力だ。
「日本で畜産やったって貧乏暮らしですからね、それでもいいって人もいるし儲けてる農家もありますが少数でしょう。365日、休み無く牛の世話して出荷なんて若い人はやりたがらないし、既存の農家は儲かる上に必要とされるなら中国でもどこでも手を貸しますよ。個人の事情ですからね、農家をそうしたのはどこの誰なのかと、そういうことですよ」
日本の畜産農家の戸数は絶望的なまでに減り続けている。農水省によれば肉用牛の飼養戸数は2012年に6万5200戸だったものが2021年には4万2100戸にまで減少している。なんと約10年で三分の一の農家が消えた。幸いにして1戸あたりの飼養頭数は減った分とはいかないまでも増えているが、つまるところ農家1戸あたりの負担は増大している。これは乳牛も豚も鶏も同じ、いや農家というくくりならコメ農家も同様で、高齢化と少子化はもちろん、国内の絶望的な「農業収入だけでは食えない」状態にしてしまった。
「食料の奪い合いも戦争なのに戦争の感覚がないのが日本です。他人が売ってくれるのが当たり前と思ってる。安全保障には食料も入ります。その和牛だって飼料は輸入に頼ってるんですから」