第73代横綱・照ノ富士は2021年8月、日本国籍を取得したことが官報で告示された。これによって引退後は親方として協会に残ることが可能となった。初の著書『奈落の底から見上げた明日』(日本写真企画)から、国籍取得についての手記を公開する。【全3回の第3回】
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現役を引退したら、親方になって協会に残り、人気力士を育て、相撲界をさらに盛り上げたいという思いがある。そのためには、日本国籍を取得する必要があった。
国籍取得に関しては、実は一度幕下に落ちたときから動き出していた。親方と相談して、もう一度相撲を頑張ると決めたときから、家族を含むみんなで話し合って、結論が出た。一番近くにいる奥さんも、モンゴルで暮らすお母さんも、「日本の皆さんに恩返しをしたほうがいい」と言ってくれた。
とはいえ、そう簡単に決められることではない。決心までには、何度も自問自答を繰り返した。実際、国籍が変わったことで「国を捨てた」なんて言われることもあるが、もちろん私にそんな気持ちはない。あくまでも母国は母国。しかし、何も知らない自分をここまで育ててくれたのは、日本の人々だ。
自分だけがわがままを言うわけにはいかない。下に落ちて、人が離れていくなかで、本当に一生懸命支えてくれた人たちを裏切ることなど、到底できないのだ。それに、自分はどちらかというと、自分のしたことで、人の人生を変えられたらいいなと常に思っていた。そんななかで、今、自分にできることは何か。何をすべきか。それを踏まえて、考えた上での結論だった。
〈親方となって相撲協会に残るためには現役中に日本国籍を取得しなければならないという角界のしきたりについても触れている〉
個人的には、この制度はこのままでいいと思う。これ自体が、日本のひとつの伝統文化であり、伝統文化を守るためにしなくてはならないことなのだと思うからだ。
一人の横綱であり、一人の日本人にもなった私、照ノ富士。横綱として今は、ただただ土俵の充実のために、そして今後は、相撲界発展のため、祖国・モンゴルと、育ての国・日本の架け橋となるために、日々を過ごしていきたいと思っている。
※週刊ポスト2022年1月1・7日号