絶妙なキャスティングが話題(番組公式HPより)
「深津絵里ってさ。JR東海のクリスマス・エクスプレスの初代なんだよね」と、こういうことに関しては記憶力抜群のS子は話が止まらない。
「そりゃあ、女優さんだから年齢より若く見えるし、綺麗よ。でもさ〜」と、65才のS子のうれしそうなこと。そうそう、ココよ、ココ! 若い美男美女ならいくらでもいる芸能界で、あえて年齢の高い演技派を揃えて視聴者を安心させてくれる。てか、話題を作ってくれている。
「毎朝、顔を洗うたび、鏡に映る顔に絶望して、その後、朝ドラを見ると、あぁ、女優だって年は取るんだなぁと、どれだけ慰められるか」と言ったのは深津絵里より1才下の介護ヘルパー・Yさんだ。Yさんいわく、「ん? まだ恋とか、40代の私もできるのか!?」と明日への希望になるんだって。
物語に、ほどよいツッコミどころがあるのもいい。『カムカム』のテーマは「女の戦前戦後史」ともう1つ、「戦後のアメリカと英語と日本人」があると思う。私の田舎では、昭和40年代になっても外国といえばアメリカ。外国人という意味で「アメリカ人」と言う人がいたの。
1970年代以降生まれの人にこの話をすると、「どういう意味?」と怪訝そうな顔をする。フランスもイギリスも、中国だって韓国だって外国じゃないかと。いやいや、それは理屈で、感覚的にいえば、私たち世代にとっての外国はアメリカのみ。戦後に入ってきた“アメリカ”はそれだけ強烈だった。
さすがに茨城の田舎では、朝ドラみたいに自分の名前をジェニーとかトニーとか名乗ったらバカ呼ばわりされたけど、少女だった私たちが抱いていた人形の名前は「マリー」と「メリー」だらけ。アメリカのテレビドラマもいまでは考えられないくらい何本も放送されていたっけ。
その名残かどうか知らないけれど、「頭がよくて英語ペラペラ」という言葉はいまでも時々聞くよね。茨城弁で育った私が、標準語を流暢に話せるからといって、頭がいいわけではないのになと、聞くたびに不思議に思うんだわ。
それにしても、子供が母親に向かって「あい、へいと、ゆー」と言うシーンはひどいよ。母親と2人で苦楽を共にしたときだってあったのに、アメリカさんに抱きつかれたのを目撃したからといって、額の傷を見せつけて「ヘイト(大嫌い・憎む)」かよ。
小学校に入学するくらいの年の子供は意外と大人の事情を知っているから、短絡的に「へいと」にはならないと思う。子供は親を嫌いになれないし、見捨てることもできないから苦労するんだよ。
ま、とは言っても、こうしてあれこれ話題にしたくなるってことは、やっぱり『カムカム』が面白いことに変わりがないんだけどね。
そうそう、キャスティングが絶妙なNHKのこと。昨年放送された金曜夜のドラマ『半径5メートル』でエキストラ体験した私に再度オファーがないかと首を長くしているんだけど、来ないか(笑い)。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2022年2月3日号