誰もが発信者となれる一方で舌禍事件は跡を絶たない。大人力について研究するコラムニスト・石原壮一郎氏が考察した。
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かばうつもりは毛頭ありません。失礼で無神経で不用意な発言だったと思います。今回の件で初めて名前を知ったので、元々どういうキャラだったかとか、プロゲーマーとしての評価とか、そのへんをどうこう言う資格もありません。
はい、ほかでもなく、人気プロゲーマーの女性が大炎上した件です。その彼女は2月15日夜に行なった生配信中で、身長の低い男性や胸の小さい女性を侮辱する発言を連発。たちまちネット上は大騒ぎになります。あわてて謝罪コメントを出しますが焼け石に水で、17日には所属チームをクビになるなど大きな社会的制裁を受けることとなりました。
言ってみれば「近頃よく見かける話」です。でも、なんかスッキリしないというか、ノドの奥にザラザラしたものが残る感じは何なんでしょう。いや、しつこく念を押して恐縮ですが、けっして彼女をかばいたいわけではありません。
ノドの奥のザラザラの正体を探るために、この出来事をどう捉えればいいのか、立場を変えつつ考えてみましょう。
その1【発言を知って「絶対に許せない!」と正義感にかられて行動した人として】
基本的な立場〈ネットに流れてきた「身長170㎝ない男は人権がない」という発言は、どっからどう見てもケシカラン。どういう流れで言ったかは関係ないし、知る気もない。批判されて当然だから、自分も批判する。身長で人を差別するな! 人権は誰にでもある! 謝罪しろ! 引きずり下ろせ! そんなことをいうヤツに人権はない!〉
おそらく、ネットで批判の声を上げている人の多くは、おおむねこの立場かと推察されます。正義を背負って遠慮なく誰かを罵倒するのは、さぞ楽しくて気持ちいいことでしょう。癖になって、次から次へとターゲットを探したくなる気持ちも、よくわかります。
その2【こういう世の中だから批判を受けるのは当然だとしたり顔をする人として】
基本的な立場〈群がって批判しているヤツらは、ソーシャルゲーム界隈での「人権」という言葉のニュアンスがわかっていない。しかし、ネットで言葉が独り歩きしてしまう状況では、あの発言が批判されるのは仕方ない。所属チームやスポンサーも、盛り上がりかけているeスポーツのイメージダウンを防ぐために、あわててクビにするのは当然だ〉
賢明な自分は脊髄反射で獲物に群がっているヤツらとは違う、という顔をしつつ、状況分析に精を出します。結局その発言をどう思うのか、自分の判断は示しません。というか、世の中の価値観や雰囲気を的確につかむことこそが「自分の判断」だと思っています。
その3【騒動を横目で眺めつつ何はともあれ今の時代を嘆くのが大好きな人として】
基本的な立場〈渦中の人物がどういう人かは知らないしとくに興味はないが、ひとつの発言ですべてを失ってしまうなんて、怖い時代になってしまった。まさにネット社会を象徴する出来事である。あの発言が背の低い男性の人権を本気で侵害していると、誰が思ったのか。本当の意味での多様性とは、寛容とは何だろう。ああ、嘆かわしい……〉
何が起きても、とにかく「今の時代」を嘆こうとします。そうすることで「しっかり考えながら生きている自分」を確認して悦に入っていますが、ヒマつぶし以上の意味はありません。さっきの「したり顔をする人」と両立しているケースも多々あります。