富坂:おっしゃる通り難しいと思いますが、目指しているのは確かです。2020年の全人代で、李克強首相はGDP成長目標を発表せず、代わりに可処分所得の上昇率を指標にした。さらに習近平は皆が豊かになる「共同富裕」をスローガンに、真ん中が太い「アーモンド型」を目指すとした。実はバイデン大統領も「分厚い中間層」を作ると、同じことを言っています。
手嶋:米国だけでなく中国も富裕層を経済の牽引役としてきましたが、今後は可処分所得に着目し、豊かな中間層を増やし、誰でも不動産が持てるようにと政策の舵を切っている。目指す目標はいいものの、果たして実現できるか、私は懐疑的です。
富坂:問題は今のコロナ禍で消費が振るわないこと。重慶などいくつかの都市で何百もの開発プロジェクトが始まっているのですが、これらは従来型の開発で、揺り戻しが起きている。この1~2年が山場かもしれない。
手嶋:もし習近平政権が中国経済を転換するとすれば、どんな成功のシナリオがあるでしょうか。
富坂:今、中国には中間層が4億人いるといわれています。これを5億人に増やし、相当に大きな消費社会ができれば、貿易をしなくても中国だけで成長していけるという夢を描いているのです。
手嶋:内需を軸に経済を成長させる。そんな力を社会に秘めているのは中国のような国です。中国は不動産バブルが弾けてもうお終いだという見方が日本にありますが、そんな“悲観論”はやや行き過ぎだと思います。
富坂:鍵となるのは個人消費ですが、これが伸びるかどうかは将来不安と直結している。中国では労働力人口が減少に転じ、一人っ子政策をやめて二人っ子政策に転換しましたが、子供の教育費に莫大なお金がかかるので二人目を産もうとしないし、他の消費にもお金を回さない。そこで昨年は「学習塾禁止令」を出して塾を潰したが、結果にはつながっていない。
手嶋:中国はアリババなど成長の推進エンジンだったテック企業にも規制を強化しています。