富坂:テック企業は儲かるので、その富をどう分配するかで、政府とぶつかる。アリババは、関連会社のアントグループが塾の費用を賄う教育ローンで儲け、個人債務を膨らませていたので政府に目をつけられた。同社は寄付という形で社会に還元して、「共同富裕」だと言っている。面白いのは摘摘出行(タクシー配車サービス)で、儲かったから新規採用をしたが、内訳を退役軍人が何%、母子家庭の人が何%などと発表し、社会貢献をしていると主張した。完全に共産党の指導が入っています。しかし、テック企業が政府の指導にどこまで従うかは不明で、アリババが拠点を国外に移す可能性もゼロではない。
手嶋:GAFA(*)のように国境を超えて成長し、それゆえテック企業の宝は優れた人材です。米国で高等教育を受け米国企業に就職した中国の若者は、ある時期からより高い地位や収入を得られると中国に戻ってきました。しかし、中国当局が規制を強めれば、有能な人材が出て行く心配がある。強権的な政府が中間層の人気を得ようとテック企業を締め付ければ、いい人材が流出してしまうディレンマに直面している。
【*米国の「Google」「Amazon」「Facebook(現Meta)」「Apple」の4つの世界的IT企業を指す】
(後編につづく)
【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年生まれ、北海道出身。NHKワシントン支局長として9.11テロを中継。『ウルトラ・ダラー』『鳴かずのカッコウ』などのインテリジェンス小説ほかノンフィクションの著書多数。
富坂聰(とみさか・さとし)/1964年生まれ、愛知県出身。北京大学中文系に留学したのち、ジャーナリストに。2014年より拓殖大学海外事情研究所教授。『ルポ中国「欲望大国」』など著書多数。
※週刊ポスト2022年3月4日号