夫婦間が5割以上
とはいえ、無条件に臓器移植をすすめるわけではない。夫婦間で生体腎移植を行った医療コラムニストのもろずみはるかさんも、臓器提供は愛の証明ではないと語る。
「私たち夫婦の場合は、移植も、その後の夫婦関係も、たまたまうまくいっただけです。もしものときは、それぞれの家庭でどうすべきか考えてほしい。その場合の治療の選択肢を増やすために、私たちの経験をお伝えしたいと思っています」(もろずみさん)
もろずみさん夫婦の生体腎移植から、まもなく4年。もろずみさんの夫は最近、妻にこう告げたという。「腎臓移植する前も幸せだったけど、腎臓移植した後はもっと幸せになったね」──。
「私にとっては、夫のその言葉がすべてです。移植は自分のエゴでもあるし、ほかの人には別の正解があるはず。でも、ほかでもない、私に腎臓をくれた夫が“幸せになった”と言ってくれるなら、それがすべてです」(もろずみさん)
臓器移植によって幸せを取り戻した人にとって、それはまぎれもない宝物だ。小林さんが言う。
「臓器移植はドネーション(寄付)であり、宝物です。医師とコーディネーターは、ドナーの思いと宝物をレシピエントに受け渡す役割を担っています。もし、誰かから臓器を受け取るようなことがあったら、その宝物を、一生大切にしてほしい」
夫婦間の臓器移植は、残りの人生を幸せにともに過ごすための、選択肢のひとつに過ぎない。しかし、それと同時に、お互いを思いやる愛の形であり、耐えがたい苦しみをふたりで乗り越えた軌跡でもある。
※女性セブン2022年3月3日号