相場に絶対はない。撤退の道筋を想定しておこう
二党対立にとどまらず、近年の米国では、社会主義的活動家や極右の過激派組織、アナーキストなども力をつけている。傍から見る以上に政治の内実は混沌としており、「どっちに転ぼうと安全」な状態とは言えない。
“壊し屋”トランプが本領を発揮し、米国がこれまでのところでは想定できなかったレベルの変革を遂げたとき、株式市場の常識も破壊される可能性が高いだろう。これまでずっと乱高下を挟みつつも値上がりしてきた米国株が、ついに復調しなくなるシナリオも十分に考えられる。
「米国が『アメリカンファースト』を実現し、一ローカル国に戻るとき、米国は真の意味での自由の国、アメリカンドリームを夢見ることができる国ではなくなるでしょう。これまでの米国には、世界中から優秀な人材が集まっていましたが、優秀な人ほど自分の生まれた国に帰るとか、より自由な国に移動するなどの動きも見られるはず。人材の流出とともに、資産も国外へと流出していきますから、そうなれば米国内は空洞化。この段階まで来れば、その後没落の一途をたどっていくことは目に見えています」(長嶋さん)
米国株投資家にとっては最悪のシナリオだが、投資をするうえではベストシナリオだけでなく、こうしたネガティブな情報も分析して、撤退の条件も整理しておくべきだ。すでに、連邦議会議事堂の襲撃といった、かつての米国では起こり得なかったような事態も発生しており、大変化の兆しは見えているとも言える。
目先(2022年)の米国株市場の動向について、多くの専門家は「利上げなどの影響による短期的な下落を挟みつつも、長期では上昇に向かう」と分析している。これを受けて、安くなったところで有望な米国の個別株を買う、せっせと米国株のインデックスファンドを積み立てる、といった行動をとる投資家も多いだろう。
それが間違いというわけではない。しかし、米国=成長著しい夢の国ではない、という認識の下、クラッシュに巻き込まれない手立ても同時に考える必要はある。たとえば、ほったらかしで値上がりを待つのをやめる。目標値を定めて、機械的に、こまめに利益確定するルールを課す。あるいは、現在の資産が米国に偏重しているなら、教科書的な理論に立ち戻って、一カ所に偏り過ぎないポートフォリオを組み直すのも有効だ。
もちろん、情報収集も必須になる。2022年2月21日には、トランプ前大統領が新しいSNSアプリ「トゥルース・ソーシャル」を開始した。ツイッターアカウントを永久停止されたトランプ前大統領のメッセージが、また日の目を見るようになる。まずはそんなところをチェックしてみるのもいいかもしれない。
【プロフィール】
長嶋修(ながしま・おさむ)/1967年、東京都生まれ。不動産コンサルタント、さくら事務所創業者・会長。不動産デベロッパーで支店長として幅広く不動産売買の業務全般を経験後、1999年にさくら事務所を設立。“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”の第一人者として活動する。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。2008年にはホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を目指し、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任する。メディア出演や講演、出版・執筆活動も精力的に手掛け、『100年マンション』『不動産格差』(日経新聞出版)など著書多数。2019年に始めたYouTubeチャンネル『長嶋修の不動産経済の展開を読む』(現在は『長嶋修の日本と世界を読む』 に改題)では、不動産だけではなく、国内外の政治経済、金融、歴史などについても解説。広範な知識と深い洞察に基づいた的確な見立てが注目を集めている。