「物足りないやつばかりだけど、人手は欲しい」(イメージ)
そこで実際、そういった言動の見受けられた知り合いのプロダクション経営者に話を聞いた。過去形なのは、最近は色んな意味で大人しくなったからである。また旧知の仲であり本旨を伝えやすくするため、本人了承の上、あえてやり取りをくだけた形のままとした。
「うーん、若かったからって言い訳はさせてよね。それ前提で話すと、やっぱ俺の会社なんか入ってくるのはさ、他の大手とか有名どころを落ちた奴なんだよ。そりゃそうだよね、待遇だってよくできないし、やりがい搾取と言われても仕方ないからね。そんなところに入ってくるってのは、やっぱ俺からすると物足りない奴ばかりなんだ。でもそんなのでも人手は必要ってところかな」
こういう会社は迷惑だから他人を雇ってほしくないのだが、筆者の知る別の業界新聞(すでに廃刊)社主も「大手を落ちて、中堅落ちて、いろいろ落ちてもマスコミ、ってのしか来ない」とボヤいていた。会社の大小でなく、経営側の人格に尽きる話かもしれないが本当にいるから困る。
「俺は国立(大学)出て大手に勤めたあと独立したけど、最初からうちに来るってのは俺に比べるとねえ、という感覚はやっぱりあるよ。ありがたいとは思ってるけど、物足りないのは事実だね」
なるほど、確かに会社は小規模零細であっても成功した社長の多くは大手企業から独立したり、中小企業でもエース級の活躍や実績を残したりの人が多い。小さくとも社員を雇えるだけの企業を興し、それが長く続くならたいした才覚だろう。統計はさまざまだが、会社を立ち上げて5年存続は10%、10年で5%、20年となると1%もない、それどころかわずか3年で約50%が消えるとされている。「その辺の社長さん」もじつは凄いのだ。彼も小さな会社だが配信事業が好調で年商は億、脱サラしたい人にとっては理想かもしれない。ただ、人格と経営がイコールかというとそうでもない。
社長業ってほんと孤独だから
「うちは少し特殊な仕事だけど、売上のほとんどは俺のコネクションが主だから社員に多くは望まない。手足で動いてくれればいい、その手足すらできない連中、なんだよねえ」
なんだよねえ、と同意を求められても困るし採用したのは自分だろうに。と言うと「そんなんだけどさー」と反省の色はない。
「小さな会社で社長の売り上げが大きい会社だと、誰が食わせてやってるんだって経営者は多いよ。実際そうだしね。社員はアシスタントって感じでワンマンになりやすいかもね、アシスタントというより私物かな」
業種によっては社長が仕事をとってきて回す、社長の売り上げがほとんど、という場合もある。デザイン事務所などのクリエイター系、法律や税務、あと個人医院なども形態だけなら(多くはまともなことは当然だが)それに近いだろうか。知り合いの人気歯科医は年中スタッフを募集しているが、それは「使えないから」と辞めさせまくるから。それでも本人の腕で客はつくし仕事がなくなるわけではない。労基もなぜかだんまりだ。また某有名漫画家の事務所は「行ってはいけないアシスタント先」の上位である。しかし事務所の社長でもある彼の才能だけで数十億を売り上げるわけで、アシスタントなんか使い捨てでもネットで告発されても作品のファンが減るわけではないし今や大御所、アシスタントに「才能ないって哀れだよね」と平気で言う。ここまでくると何らかのパーソナリティ面の支障を疑ってしまうが、どの業界にもこうしたワンマン経営者がいる。迷惑な話だが、とくに小さな会社の経営者は王様、稼げていることが前提だが、大企業とは異なる土壌がある。