従業員が辞めてもすぐ次に人がやってくる時代ではない。写真は1967年、東京駅に集団就職列車が到着したときの様子(時事通信フォト)

従業員が辞めてもすぐ次に人がやってくる時代ではない。写真は1967年、東京駅に集団就職列車が到着したときの様子(時事通信フォト)

「さすがに俺も年取ったから大人しくしてるけどね。少子化で若い子も減ってるし、20年前みたいなとっかえひっかえはできないからさ。かといっておっさんはいらないし」

 自分もおっさんだろと言ったら「そうなんだけどさー」とぼやく。昔から中小企業のオヤジにはこういう人がいた。しかし現代では通用しなくなっている上に、日本全体がかつてほどの経済規模を維持できていない。それでもまだ日本国内には健在だ。

「あと孤独ってのもあるね、社長業ってほんと孤独だから。俺はそこまでじゃないけど、見下す相手が欲しくて採用してるんじゃないかって社長もいるし。キミも知ってるだろ」

 知っている。詳しくは書かないがその道の大家(たいか)、詳しい人なら誰でも知っている「大先生」だが、彼はあえて「無能」を必ず1名採っていじめている(本人談)。20代の女性スタッフは美人ばかりだが、その他「無能」なおっさんを1名採ってはいじめて辞めさせる。世の中には本当にヤバい人がいて、それが才能だけで稼ぐ大先生やオーナーという名の暴君となり、自分の会社だからと好き勝手する。かつての就職氷河期、某ベンチャー企業にもシゴキを楽しむための軍事訓練ごっこのような採用試験を繰り返した社長がいた(さすがに潰れた)。資本主義、自由主義の国なので個人の勝手と言われればそれまでだが、古い話だけでなく、最近の若手ベンチャーにもこうした経営者が散見されることは危ういと思っている。ちなみに「このハゲぇぇぇぇぇ!」で話題となったが、政治家の事務所も酷いところは本当に酷い。

「そんな奴、おっさんから刺されればいいのにね」

 笑って話す。「おまいう」案件で自覚なさすぎだが、そんな彼もまた(残念ながら)資産を含め年齢的にも逃げ切りが近く安泰。もうこればかりは、こうした会社の数々に「近づかない」ことが大事としか言いようがない。それでも採用数の限られるエンタメなどはチャンスを求めて人は来る、社長が大きな仕事や有名な作品に関わっていればなおさらだ。

 社員を私物化して人格すら否定する、人権を蔑ろにする経営者が当たり前のようにいる。こうした土壌が労働生産性を下げ、30年間賃金の変わらない日本を蝕む企業文化、労働文化の一端であるならば、小さな事例であろうとも声を上げ、日本全体で変えていかなければならない。

 社員をバカにする社長――あくまで一例からの提言だが、個々の話にとどまらず、これもまた日本経済を末端から腐らせる一因であり、価値観の変容、アップデートが求められている。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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