2019年5月、参議院本会議で、職場におけるパワハラの防止措置を企業に義務付ける労働施策総合推進法などが可決、成立し、一礼する根本匠厚生労働相(時事通信フォト)
俺の会社なんか入ってくるのは、いろいろ落ちた奴で物足りない
10年前、ある新興住宅メーカーの就職面接を受けた男性も苦笑する。
「最終(面接)で役員が言うんですよ『うちの営業は入れ替わりが激しくてね、どこにも行けないのが入ったりするんだよ』って。驚きました。くだけた感じでざっくばらんな雰囲気を作りたいのかな、とも思いましたが、そんなこと言われて入社しようと思いますかね。私も深読みして『これは不合格だからわざとなのかな』とも思いましたが、しばらくして採用のメールが来ました。もちろん丁重にお断りしましたが」
これ、古い話だが筆者も経験がある。随分前に潰れた小さな出版社だが「なんでうちなんか受けるんですか、みんな出来損ないで、あなたがつきあうレベルの編集はいませんよ」と社長が言うのだ。もうひとりの編集長と名乗る男性はそれを聞いて笑っている。私も『これは不合格だな、断るための方便だろうな』と思ったが、しばらくして採用通知がポストに入っていた。もちろん、私も丁重にお断りしたが、なぜこんな放言をするのだろう。これについて現在は独立している元アプリ開発会社のプログラマーに聞いた。
「そんなのマシですよ、いまはSNSでそれに近いことを撒き散らしてる経営者もいます。中小ベンチャーで『CEO』やら『COO』やら名乗ってる連中ですよ。自分の恥をさらしているとか思わないんですかね」
確かにSNSにはそんな社長や幹部、上司への怨嗟も渦巻いている。もちろん逆もしかりで自分の会社の社員をひたすらベタ褒めの経営者や、それをリスペクトする幸せな従業員もいる。表現は自由だし自分の会社、上下や貴賤の話とは別に社会的責任というほどでもなく、あくまで「オーナーが食ってくため」、という経営方針の小規模なベンチャー企業や老舗の同族中小企業があることは否定しない。それでもわざわざ口にすることもないのに、「うちの社員はバカだから」なんて直球を吐くワンマン経営者はいる。
これまでのヒアリングや筆者経験、また寄せられた情報から抽出したものも含め「自分の社員をバカにする社長」もしくは「自分の会社をバカにする社長」(社長だけでなく経営幹部や上司も)という前世代の遺物がいまだにはびこっていることは事実である。「そんな会社、勝手に潰れればいい」は当然だが、残念ながら残っているどころか上場を果たしていたりもする。もちろんネットを中心に会社の評判自体は悪いまま。こうした会社が日本独特のものか、海外企業にも多いのかはわからないが、大げさでなく日本の企業環境、ひいては回り回って日本の悪しきビジネス文化として経済を蝕み続けているように思う。
昭和の「うちの子はバカで」「うちの子はダメで」と言ったあと「それに比べてお宅のお子さんは」なんて親がデフォだった時代の残滓だろうか、「My Son amazing!」「Daddy Cool!」なんて身内も直球で褒める文化とされる欧米に比べれば謙遜文化の日本、それでもわざわざ他者を貶める必要はないし放言の必要もない。