質問をまともにしない
一方、他の新聞の報道ぶりは表向き在阪テレビ局と一線を画してきた。毎日新聞大阪本社版は「新型コロナ オミクロン流行・大阪 介護・医療、クラスター禍 第5波の3倍、あふれる患者」(2月22日付朝刊)の見出しで大阪の深刻さを報じ、産経新聞も社会面で「コロナ間接死因2割超。高齢者、感染で持病悪化」(2月19日付朝刊)と5段の記事を掲載。大阪の死者の多さや実情を報じてきた。
だが、吉村氏の対応について掘り下げた記事がほとんどないのは、現場の記者が知事に取り込まれつつあるからだという。テレビの府政担当記者の話だ。
「吉村知事は週1回の定例会見以外に、ほぼ毎日、囲み取材を受けている。われわれテレビの記者は絵(映像)が必要なので、知事から多くの言葉を引き出そうと質問するが、新聞記者は質問をほとんどしない。新聞社にとっても、吉村知事の発言はウェブでアクセス数を稼げる重要なコンテンツだから、各社の記者は1秒でも早く吉村知事の発言を載せようとひたすらパソコンのキーボードを叩いている。疑問があっても知事の発言や府や市の言い分をそのまま報じるだけで質問しない」
当然、深掘り記事など書けるはずがない。分かりやすいケースが感染者入力漏れ問題だ。
大阪市では職員の人手不足から感染者の情報を国の情報共有システム「ハーシス」に入力する作業が大幅に遅れた。ところが、その後、市健康局が入力を急ぐために見積書も契約書もないまま入力作業を口約束で民間業者に9650万円で委託していたことが市議会の自民党議員の質問で発覚、松井市長は「市民の信頼を損なうものだった」(2月18日)と謝罪に追い込まれた。
前出の松本氏が在阪メディアの病巣をこう指摘する。
「行政の崩壊と言っていいほどの大問題ですが、各社とも市議会でのやり取りを表面的に報じただけで、根幹にある維新行政の問題や松井市長の責任までは追及しない。大阪市の感染者情報入力遅れは府全体の対策や信頼性にもかかわるが、維新内部の力関係で吉村知事は松井市長を批判できない。記者たちもその立ち位置に同化しているのでしょう。毎日新聞など一部を除き、ほとんどの記者は知事を日々囲むうちに首長目線になってしまい、距離感を見失う。嫌われることを恐れ、批判的視点そのものを持ちにくくなっている」
吉村府政に在阪メディアのチェックが働かないことが、大阪での感染深刻化につながっていないことを祈るばかりだ。
※週刊ポスト2022年3月18・25日号