4月12日に今年度の東京大学の入学式が行なわれる。コロナ禍により会場への家族の入場は認められずオンライン配信となるが、コロナ前の2019年の入学式で話題となったのが、「東大女子」が置かれた生きづらい環境に言及した上野千鶴子・名誉教授の祝辞だった。東大女子たちは、東大を卒業した女性たちは、どのような困難に直面するのか。20~90代の東大卒女性たちへのインタビューを重ねたジャーナリスト・秋山千佳氏がレポートする。(文中一部敬称略)
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中野信子、山口真由、豊田真由子……名前を見てパッと顔が浮かぶ人も多いだろう。彼女たちの共通項は、人気コメンテーターであること。そして、東大卒ということだ。
東大に女性が入学できるようになったのは、終戦翌年の1946年。それから76年経つ今も、学部生の女子率は2割に満たず、東大出身者の中でも女性は数少ない。それもあって「自分とは住む世界が違う」と思っている人も、男女問わずいるかもしれない。
筆者はこの3人を含む20~90代の東大卒女性たちにインタビューし、『東大女子という生き方』(文春新書)という本を出したばかりだ。彼女たちの語りを聞いて胸に湧いてきたのは、これは「特別な誰かの話」ではなく「私たちの話」だ、という思いだった。
信州大学特任教授の山口真由(2006年法学部卒)は、自身が財務官僚や弁護士だった頃を振り返って大粒の涙をこぼしたあと、こう打ち明けた。
「……でも今は、自分に満足しはじめています。東大のように一つのものさしで走るという世界ではなく、可能性の扉を開け続けて、一つでも自分の居場所があればそこに居座っていいんだと。弁護士を辞める頃は、この世界にハマれなかった私は消えたほうがいい、と常に思い詰めた状態だったんですよ」
山口は、東大から地続きの男社会の評価軸に自分を合わせようとする一方で、旧来の女性観や結婚観に心揺らぎ、恋人男性の心ない言葉に自己肯定感をすり減らした経験を持っていた。その結果、「消えたほうがいい」と考えるほどに追い込まれていたというのだった。
官僚や弁護士という超のつくエリートでなくとも、同じような経験を持つ人は珍しくないだろう。筆者自身も、身に覚えがある。