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【新刊】塩田武士氏が“記者魂”で読ませる『朱色の化身』ほか4冊

作家デビュー10周年の著者が到達した「人間という大河を言葉にする世界」

作家デビュー10周年の著者が到達した「人間という大河を言葉にする世界」

 ようやく長い冬が終わり、外出が楽しみな季節がやって来ました。お出かけの際には1冊、本を携えて、空いた時間に読書を楽しむのはいかがですか? おすすめの新刊4冊を紹介します。

『朱色の化身』/塩田武士/講談社/1925円

 第1部は昭和31年に芦原温泉で起きた現実の大火を証言で描き、第2部ではライターの大路が父の願いで芦原出身の辻珠緒の消息を追う。1963年生まれ、京大卒の珠緒の軌跡を通して読者も、雇均法、金融バブル、上昇婚、ゲーム産業隆盛など、近過去を追体験するはず。新聞の社会面的事実を丹念に組み立てる中から生まれ落ちた“或る女の軌跡”という創作。著者の記者魂で読ませる。

迷う人、疲弊した人、失意の人。うどん県のうどんの湯気が彼らを温める

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『タラント』/角田光代/中央公論新社/1980円

 戦争で片足を失った祖父、不登校の甥。香川出身で東京で夫と暮らすみのりは洋菓子店で働く。彼女は大学時代、難民キャンプでボランティアをするなど熱かったが、今は無気力。タラントとは「使命」の意。キラキラした才能を持つ人と自分を引き比べる人々に、生に軽重はない、ささやかな日常も善だと勇気の松明を渡す。祖父の無口に隠れたパラリンピックのドラマに深く感動。

ウクライナで没したシベリア抑留日本兵も。歴史が語る”本家ロシア”の誇りと悲劇

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『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』/黒川祐次/中公新書/946円

 10〜12世紀の大国キエフ・ルーシ公国。次第に衰退し、モスクワにルーシ(ロシア)の名を取られる。版図が変わる中“我こそロシア本家”の矜持は20世紀に入って6度目の独立宣言でようやく実現(1991年)。本書は希望で終わるが、この2月のプーチン侵攻で再び戦火に。国内からキエフに届く支援食糧は肥沃な土地の証左。それゆえ常に他国の欲望の対象となる悲劇が痛ましい。

この世で無敵の相棒だったママ。喪に沈まないのは今も二人三脚だから

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『いつでも母と 自宅でママを看取るまで』/山口恵以子/小学館文庫/726円

「そばにいるからね」と娘が囁く中、旅立った91才の絢子ママ。娘の最強の支援者は、売り込みが不首尾だと「あんたの才能を分かっていない」と憤慨し、うまくいかなかった見合い相手のことは腐した。食堂のおばちゃんになった時も松本清張賞を受賞した時も同じように喜んだ。ママとの60年間は著者の宝物。介護保険、自宅での看取り、マンション型お墓など実用知識も有り難い。

文/温水ゆかり

※女性セブン2022年4月21日号

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