1997年の東京モーターショーの一般公開の初日、注目を浴びる環境に配慮したトヨタ自動車のハイブリッドカー「プリウス」(時事通信フォト)

1997年の東京モーターショーの一般公開の初日、注目を浴びる環境に配慮したトヨタ自動車のハイブリッドカー「プリウス」(時事通信フォト)

「軽で十分よ。そこまで生きないし、生きてても免許は返納してるでしょうよ。いまだって免許をそろそろ返したらって娘がうるさいのに」

 そう言って笑う女性は70代半ば、確かに現状はガソリンエンジン車、せいぜいトヨタのプリウスに代表されるHVで済む話。別の60代男性もこう語る。

「いちいち不便な電気自動車にする必要なんかないですよ。それが便利になるころには私たちはあの世だ」

 もちろん冗談で笑い合うような雰囲気だったが、これは他人事ではなく筆者も今年で50歳、まあいつまで生きるかは知らないが、加齢による免許返納を加味してもガソリンエンジン車で生涯を終えるだろう。これが実のところ国内のBEV普及の最大障壁になるのではと思うのだが、「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」とする政府方針とは裏腹に、仮に80歳前後で寿命、もしくは免許返納とするなら現在の65歳以上の運転免許所有者2000万人そのものは消える。2049年とするなら筆者も入ってしまい、おおよそ4000万人の運転免許所有者が消えることとなる(令和2年度版、運転免許統計から独自に算出)。もっと長生きするかもしれないが、それこそ90代まで運転というのは現実的ではないし、例の池袋の事故ではないが控えるべきだと思う。

 また、ただでさえ30歳未満の自動車保有率は半数前後、二輪に至っては国産車新規購入ユーザーの平均年齢が54.7歳(日本自動車工業会・2019年度二輪車市場動向調査)という「中高年しか乗り物を買わない」という現状にあって、その中高年の大半がBEVの世に消えてしまう。もちろんこれはBEVに限った話ではなく、これから迎える内需を脅かす急速な人口減の話にもつながるが、2021年の出生率は84万人、彼らが免許を取得する2040年代、国内メーカーが現在の自動車ユーザーの主要世代とその数を収益面でリカバリーできるとはとても思えない。国内自動車メーカーの元エンジニアにこれらの話をしてみると笑って答えてくれた。

「いや、もっと簡単に考えましょうよ。ガソリンはあちこちで給油できるし数分で終わる、ガソリン車のほうが選択肢は多いし中古で安く買える車種もある、軽だってある。車検や修理、整備士も含めていまだにガソリン車が前提、日本の大半が地方で車は趣味より生活の足、そう考えると、ぜんぶ逆のBEVを選ぶ人っているんですかね、BEVの超高級外車はともかく、国産の安いので補助金あっても最低200万とか300万はするでしょ、買いますか?」

 確かに200万、300万出すならガソリン車(HV・PHV含む)のほうが現状は魅力的な車種がよりどりみどり。エコというだけでわざわざ面倒で選択肢も限られ、電気インフラそのものも未整備なBEVを選ぶというのはそうとうに意識の高い人、もしくは新しもの好きの人に限られるだろう。幸いにして日本の自動車メーカーは世界を制した丈夫で高性能なガソリンエンジン(内燃機関)を有している。すべてにおいて質も高い。私たちもその恩恵にあずかっているわけだが、このアドバンテージすら消えるのはとても怖い気がする。

「BEV車ばかりになれば充電待ちも増えるでしょう。HVは国内的に理想的ですが、あれも結局のところガソリン(もしくはクリーンディーゼル)使ってますからね」

関連キーワード

関連記事

トピックス

多忙なスケジュールのブラジル公式訪問を終えられた佳子さま(時事通信フォト)
《体育会系の佳子さま》体調優れず予定取り止めも…ブラジル過酷日程を完遂した体力づくり「小中高とフィギュアスケート」「赤坂御用地でジョギング」
NEWSポストセブン
麻薬密売容疑でマグダレナ・サドロ被告(30)が逮捕された(「ラブ・アイランド」HPより)
ドバイ拠点・麻薬カルテルの美しすぎるブレイン“バービー”に有罪判決、総額103億円のコカイン密売事件「マトリックス作戦」の攻防《英国史上最大の麻薬事件》
NEWSポストセブン
広島県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年6月、広島県。撮影/JMPA)
皇后雅子さま、広島ご訪問で見せたグレーのセットアップ 31年前の装いと共通する「祈りの品格」 
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一(50)。地元でもショックの声が──
《地元にも波紋》「デビュー前はそこの公園で不良仲間とよくだべってたよ」国分太一の知られざる “ヤンチャなTOKIO前夜” 同級生も落胆「アイツだけは不祥事起こさないと…」 【無期限活動停止を発表】
NEWSポストセブン
政治学者の君塚直隆氏(本人提供)
政治学者・君塚直隆氏が考える皇位継承問題「北欧のような“国民の強い希望”があれば小室圭さん騒動は起きなかった」 欧州ではすでに当たり前の“絶対的長子相続制”
週刊ポスト
TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《あだ名はジャニーズの風紀委員》無期限活動休止・国分太一の“イジリ系素顔”「しっかりしている分、怒ると“ネチネチ系”で…」 “セクハラに該当”との情報も
NEWSポストセブン
月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』主演の中井貴一と小泉今日子
今春最大の話題作『最後から二番目の恋』最終話で見届けたい3つの着地点 “続・続・続編”の可能性は? 
NEWSポストセブン
『ザ!鉄腕!DASH!!』降板が決まったTOKIOの国分太一
《どうなる“新宿DASH”》「春先から見かけない」「撮影の頻度が激減して…」国分太一の名物コーナーのロケ現場に起きていた“異変”【鉄腕DASHを降板】
NEWSポストセブン
出廷した水原被告(右は妻とともに住んでいたニューポートビーチの自宅)
《水原一平がついに収監》最愛の妻・Aさんが姿を消した…「両親を亡くし、家族は一平さんだけ」刑務所行きの夫を待ち受ける「囚人同士の性的嫌がらせ」
NEWSポストセブン
夫・井上康生の不倫報道から2年(左・HPより)
《柔道・井上康生の黒帯バスローブ不倫報道から2年》妻・東原亜希の選択した沈黙の「返し技」、夫は国際柔道連盟の新理事に就任の大出世
NEWSポストセブン
新潟で農業を学ことを宣言したローラ
《現地徹底取材》本名「佐藤えり」公開のローラが始めたニッポンの農業への“本気度”「黒のショートパンツをはいて、すごくスタイルが良くて」目撃した女性が証言
NEWSポストセブン
1985年春、ハワイにて。ファースト写真集撮影時
《突然の訃報に「我慢してください」》“芸能界の父”が明かした中山美穂さんの最期、「警察から帰された美穂との対面」と検死の結果
NEWSポストセブン