自動車における化石燃料の全廃となればHV(PHV含む)も消える。欧米や中国といったBEV先進国はHVにも否定的であり、実際にEUのガソリン車販売禁止(2035年を予定)にはHVも入っている。EUの方針が国際基準として通るなら、日本が唯一アドバンテージを持つとされるHVも消える。日本メーカーのBEV、FCV開発の挽回に期待したいところだが、欧米はもちろん中国、韓国は国策による強引ともいえるインフラ政策も手伝って遥か先を行っている。とくに中国の電気自動車メーカーの躍進はめざましく、SGMW、BYDといった日本では馴染みのない新興企業が世界市場の上位にいる。もちろん圧倒的な首位はイーロン・マスク率いる米テスラだ。
「資源のない日本にとって脱炭素って不利だと思いますよ。仕方のない話ですが、さっきお話していた国内のインフラ面も含めて遅れたためにHVでいくしかなかった。旧来の日本車が優秀過ぎたのもあったと思いますし、国内の人口減が決定的な状態で既存顧客を捨てられないというのもあると思います。いまの40代から上の方々はガソリンエンジン車を生涯使っても問題ないでしょうからね、逃げ切りというか」
幸い、と言っていいかわからないが、寿命にしろ免許返納にしろ、現在の中高年から上はBEVとそれほど付き合わずに済むだろう。そもそも言い方が難しいが、BEVも含めた「2050年カーボンニュートラル」を宣言する内閣の平均年齢そのものが61.8歳、それでも次世代のために尽くしているのだ、と考えたいが「今だけ金だけ自分だけ」が跋扈して久しい近年の政治を見るにつけ正直、信用しづらい。
「環境関係の補助金や助成金は美味しいですからね。それはBEVも同じでしょう。政治の道具にもなっているようにも思います」
これは本旨ではないため割愛するが、とにかくBEVという命題に絞って考えれば車種の充実や補助金よりも脱化石燃料の社会を前提にしたインフラの整備、それに移行することに対する国民の理解と安心を確保することが先なのではないか。
「日本は電力も不足していますからね、今後さらに不足するのに脱原発、火力発電もいずれ禁止になるかもしれない、それですべてを電気自動車って、どうするつもりなのでしょうね」
資源もなく、脆弱な日本の電力事情で将来的に完全な脱化石燃料、BEVを進められるのか。イギリスはこれから原発を8基、フランスに至っては14基(!)計画しているが日本はどうするのか。ロシアのウクライナ侵略が長引けば、資源の乏しい日本はさらなる買い負けと資源の高騰に苦しむだろう。この戦争により欧州のグリーンディール路線もさっそくあやしくなってきた。主義主張で電力は賄えない。BEVが増えても肝心の電力が不足しては本末転倒だ。広大な国土はもちろん資源大国でもある中国はBEVやFCVでも構わないのだろうが、日本にとってはディスアドバンテージでしかない気がする。せっかくの世界に誇るガソリンエンジン技術も捨てざるを得ないとは。
「でも企業は政治家なんかより先を見てますよ、日本の自動車メーカーがBEVで立ち遅れたくないのは海外で売るためですから、国内需要なんて将来的な柱には入ってないでしょう」
なるほど、2050年でもうひとつ付け加えるなら日本の人口は1億人を切る。そのうちの約60%は65歳以上の高齢者である。日本の自動車メーカーはユーザーそのものが減り続けることの決まっている国内より、国外で生き残りを賭けている、ということだろう。
なんだかもう、BEVがどうこうでない気がする。実のところ、化石燃料禁止と脱炭素に懐疑的な人たちは大きな観点で日本の将来を不安視しているのかもしれない。お国によって事情は様々なはずなのに、何でも世界に、とくに欧州に迎合することが、本当に資源の乏しい日本のためになるのだろうか。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。