1987年7月にライブツアーを再開したものの、スターであり続けることの重圧は大きかったのだろう。9月には急病により全国ツアーを中断、同年12月には覚醒剤取締法違反で逮捕される。
1988年9月に4枚目のアルバム『街路樹』がリリースされるまで、3年の歳月を要し、5枚目のアルバム『誕生』(1990年11月)のリリースには、さらにもう2年かかった。2年間で3枚のアルバムを作り上げていた10代の頃に比べると、曲を生み出す葛藤がいかに大きかったかがうかがえる。
曲のカバーで尾崎の世界観と向き合う
加藤は『I LOVE YOU』をカバーし、歌手として尾崎の世界観と向き合った。
「この曲は、ひとりぼっち同士が、この広い宇宙の中で愛し合う、という内容なんです。漠然と言葉にできなかった孤独を“捨て猫”と表現しています。温かくやさしく、ストレートに愛を伝えながらも、人間はひとりぼっちだと歌っています。公園で子供をあやしているお母さんも、仲間に囲まれている人も、本人にしかわからない孤独はある。尾崎さんの曲は、誰もが抱える孤独に寄り添っているんだと思います」
尾崎の訃報は、加藤がパリでのコンサートを終えて帰国し、成田空港にいるときに飛び込んできたという。
「1992年は、私も出演した、宮崎駿監督のアニメ映画『紅の豚』の公開や、夫(故・藤本敏夫さん)の参議院選出馬など、さまざまな出来事があり、私の人生でも波乱にとんだ一年でした」
尾崎の早すぎる死も、そういう大きな事件の1つとして、加藤の人生に深く刻まれているという。
【プロフィール】
加藤登紀子(かとう・ときこ)/1943年生まれ。1966年デビュー。作詞家、作曲家、女優、歌手として活躍。代表作は『百万本のバラ』『知床旅情』ほか多数。尾崎豊『I LOVE YOU』のカバー曲を収録したアルバム『SONGS うたが街に流れていた』(ユニバーサル)が発売中。
取材・文/前川亜紀
※女性セブン2022年5月5日号