ブームの絶頂期に結婚したユーミンは、この後、さらりと2年間の休養に入ってしまう。ユーミンはその理由を富澤さんのインタビューでこう答えている。
《世の中がピークだと思う前に、あの手のポップスはやり遂げたって意識があったのね。世間が新鮮じゃないという判断を下す前に、あたしの中では、やってることがもう新鮮じゃなくなってたわけ。自分が新鮮じゃないってことに、嘘はつけないタチだから……》
このときのことを富澤さんは、次のように振り返る。
「結婚後、リリースしたアルバム『紅雀』(1978年)は、女の倦怠感をテーマにした、これまでの彼女とは違う渋い構成になっていました。
荒井由実のイメージではないものを作ろうとしたのでしょうが、その意図は裏目に出て、彼女が何をしてもファンなら受け入れてくれる、という考えは通用しませんでした。 結婚して人気が落ちることは予想していましたが、そんなこともあり売り上げは荒井由実時代の3分の1に激減。荒井由実時代に得た財産を失ってしまうのではないか、危険な賭けだったんじゃないかと思いました」
だが、富澤さんの心配をよそに、ユーミンは淡々と自分の道を突き進んで行く。先の彼女のインタビューは次のように続く。
《自分の作品には、絶対の自信を持っているのね。たとえ賭けがはずれたとしても、作品自体やあたしのモノの見方はとてもユニークだから、ずっと残ってく。過去に書いた作品でも勝負できる気がしてたから。荒井由実時代にも思いきってピリオドが打てた。》
「“ものの見方がユニーク”というのは最初にぼくが感じたこと。彼女は、“自分は時代との距離を一定に保っているタイプ”だと話していました。時代に関係なく自分を押し通すわけではなく、時代というものを見据えている。だからこそ、彼女の生み出す音楽はいつも斬新で、かつ人々の心にダイレクトに突き刺さるのだと感じました」