2016年第24回参議院議員通常選挙に自民党公認で比例区に立候補、米軍基地問題を曖昧なまま当選した今井議員。選挙戦では手話を使った演説で有権者にPR(撮影:小川裕夫)
「話を聞いてもらう」の関門をタレント候補は超えているが……
これまで筆者は新人・現職・元職を問わず、多くの選挙で街頭演説を取材してきた。ベテラン政治家といえども、政策を語れない候補者は多い。まして政治経験がない新人候補ともなれば、政策を語れる候補者は皆無に近い。
そうした背景もあり新人候補は割り引いて見ることにしているが、それはあくまでも取材者目線の考え方にすぎない。有権者は、「ちゃんと仕事をしてくれるか?」「この国の政治を任せられるのか?」などを基準に一票を投じる。そこにベテランも新人も関係ない。
しかし、どんなに立派な政策を掲げていても、崇高な政治理念を抱いていても話を聞いてもらえなければ始まらない。政治家を目指す候補者にとって、最初のハードルは有権者に耳を傾けてもらうことだ。タレント候補は多くの人たちに顔を知られているので、その第一関門を突破しやすい。
小政党の場合、テレビ・新聞などで話題にしてもらいにくい。日々、なにかと話題性を集めることに腐心している。手法が異なっているものの、自民党・立憲民主党といった主要政党でも話題を集めたいという心理は変わらない。主要政党がタレント候補を擁立するのは、有権者の関心を引くための手段のひとつといえる。
近年に立候補したタレント候補のなかでも話題性のあった候補者といえば、2016年の参議院議員選挙で当選した自民党の今井絵理子議員を思い浮かべる人も少なくないだろう。アイドル・ボーカル・ダンスユニットのSPEEDの元メンバーという経歴から、選挙では大いに注目を集めた。
SPEEDは沖縄県出身者による4人組のユニット。政治家として立候補すれば、テレビ・新聞の取材陣が米軍基地問題に対して質問をすることは事前から容易に予測できた。通常なら、マスコミ対策として想定問答を作成するなどの準備をしておくだろう。ところが、今井候補は基地問題に対して自身の考えを表明できなかった。これだけを見ると、タレント候補として色眼鏡で見られ、そしりを受けてしまうことは仕方がない。
今井候補は息子さんが先天性難聴というハンデを負っており、そのために手話を習得。そうした経験から、障害者福祉に取り組むために政治家を志したと伝えられていた。