日常的に使っているさまざまな容器から環境ホルモンが検出(Getty Images)
もともと、プラスチックは有機化学物質の一種で、基軸になるのは、人間の体の中にも存在する炭素と水素。この構造が生物のホルモンに似ているため、影響を与えやすい。
「細胞の中でホルモンが働くためには、ホルモンの種類ごとに形が異なる鍵穴のような『受容体』に、ホルモンがピッタリとはまることで、内臓や神経に指令が送られます。ところが、ある種の化学物質は、この鍵穴にはまってしまい、ホルモンの働きを阻害するのです。これが『内分泌かく乱物質』であり、一般に『環境ホルモン』と呼ばれるものです」(高田さん・以下同)
ホルモンというと、男性ホルモンや女性ホルモンなど、生殖にかかわるものが連想されるが、それだけではない。血糖値を抑えるインスリンや心の安定にかかわるセロトニン、やる気を出すアドレナリン、眠りを促すメラトニンなど、ホルモンの数だけ鍵穴(受容体)があり、かく乱物質の被害は全身に及ぶ。
「1980年代中盤から問題になったダイオキシンも、環境ホルモンの一種です。薬物代謝酵素の受容体に結合し、免疫に欠かせないビタミンAを減少させ、免疫力を低下させたことにより、北海でアザラシの大量死が起きました」
高田さんは「人間の体でも同じことが起こる可能性は高い」としたうえで、こうしたかく乱物質が、いままさに、人類の免疫力の低下を招いている可能性を指摘する。
「かく乱物質の種類によっては、免疫に関連する受容体に影響することは充分に考えられます。現在の新型コロナウイルスのまん延も、かく乱物質が原因の1つである可能性はゼロではないでしょう」
一方、ペットボトルやカップ麺の容器に使われているフェノール類は、生き物の体の中で女性ホルモンのような働きをすることが多い。オスのメダカをメスに変えたり、人間でも、妊娠している場合は、胎児に影響が及ぶという。
「こうした作用が指摘され、フランスでは2010年代の時点で、危険性がある環境ホルモンの『ビスフェノールA(BPA)』を含む製品はすべて禁止されました」(室井さん)
高田さんの研究では、ジッパーつき保存袋、スチロール容器、ポリ袋、ストロー、食器用スポンジ、ポリエチレン手袋などの日用品のほか、いまや必需品となった不織布マスクなども対象とし、環境ホルモンが含まれているかどうかを検証した。その結果、35品目中33品目から環境ホルモンが検出された。BPAはハンバーガーなどの包み紙のほか、かつては哺乳びんにも使われており、問題になった。
「一部の不織布マスクからも、環境ホルモンが検出されました。ですが、マスクは直接口の中に入れたり、食品に付着するものではないので、一般的な使い方をしていれば、心配はありません。ただし、こうした製品の使用後はポイ捨てなどはせず、きちんと処分してください。雨で流されて海に入れば、ウミガメや魚が食べてしまったり、めぐりめぐってヒトの体にも入りかねません」(高田さん)