1988年公開の日本・中国合作映画『敦煌』は数々の賞に輝いた。写真はクランクインした1987年5月20日、北京八一映画製作所の宮廷のセット前にて。左から佐藤浩市、佐藤純彌監督、西田敏行(写真/共同通信社)
「もちろん実在の人物ですが、広常はこれまであまり知られていなかった。坂東随一の大豪族と聞いてピンとくるのは、よほどの歴史マニアくらいだったんじゃないでしょうか。ぼくも知らなかったんですよ。資料を読んで、『千葉県の上総という地名が名字になっているのか、だったら下総という人もいたのかな』なんて思ったくらいで。
広常という人物のキャラクターも、当時の豪族たちのヒエラルキーがどんなものだったのかといったことを想像しながら作っていったんです。三谷氏からこういうキャラでという具体的な話はなかったけれど、“濃いキャラを期待してるよ”という無言のプレッシャーはひしひしと感じていました」(佐藤・以下同)
そうして誕生した広常は、べらんめぇ口調で話し、「源氏と平氏のどっちにつこうかな」と両者を弄ぶ豪快な人物。「この戦、俺がついた方が勝ちだ」と豪語するラスボス感が物語を大いに盛り上げた。
そして、注目が集まるや否や、同じく三谷脚本の大河ドラマ『新選組!』(NHK、2004年)で佐藤が演じた芹沢鴨のキャラクターと被ると話題に。そのことに触れるとニヤリと顔をほころばせ……。
「確信犯ですから。三谷氏の遊び心というか、芹沢へのオマージュでしょうね。ぼくとしてはあれから18年も経つのかと、感慨深いものがありました。鴨のせりふに『ジジィは引っ込んでろ』みたいなのがあったんですけど、いまじゃこっちがジジィになっちゃって(笑い)。
といって、鴨のことは意識していませんでした。ただひたすらに、広常の生きることに対する情熱や、傲慢である半面、どこか憎めない彼の人となりを伝えたいと思って演じたんです」