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舞台は本土復帰直前の沖縄 坂上泉氏が描く昭和史×警察小説『渚の蛍火』

坂上泉氏が新作について語る

坂上泉氏が新作について語る

【著者インタビュー】坂上泉氏/『渚の螢火』/双葉社/1870円

 御一新で没落した元士族など、西南の役で官軍に雇われた壮兵たちの人生を通じて、近代明治のもう1つの顔を描いた松本清張賞受賞作『へぼ侍』でデビュー。第2作『インビジブル』では、昭和24年から約5年間、大阪市警視庁が実在した事実を軸に関西戦後史の知られざる実像を活写し、歴史エンタメの新星として期待を集める坂上泉氏(32)。

 注目の第3作となる『渚の螢火』では、舞台を50年前の沖縄にとり、1972年5月15日を2週間後に控えたある日、琉球銀行の輸送車が襲われ、現金100万ドルが奪われた強盗事件と、その迅速かつ秘密厳守での究明を命じられた、琉球警察本部・本土復帰特別対策室班長〈真栄田太一〉らの奮闘を描く。

 折しも沖縄が日本に復帰し、ドルが円に切り替わる瞬間を狙いすました犯行。そして半月後には解散する琉球警察の威信もかかった事件を前に、八重山出身で、本土や沖縄にも馴染めない自分は一体何者なのかと、真栄田の心は揺れに揺れた。それでも彼が警官であることは揺らがない事実で、追う側も追われる側もそれぞれに事情を抱えた、手に汗握る時限サスペンスだ。

「本当なら1か月くらい沖縄に滞在して、地元の生の声などを反映できればよかったのですが、残念ながらそこまでは出来ませんでした。だから、沖縄言葉や返還前後の空気感をどこまで再現できているか、正直、今でも不安は少しあります。

 僕自身は兵庫県の出身ですが、東京中心の公式史観みたいなものって本当なのかなあと、よく思うんです。大阪でも砲兵工廠の跡が市内の中心部にずっと残っていて、小松左京さんが『日本アパッチ族』に書いたような、屑鉄を盗み出す人がいたりする世界がつい最近まで存在した。戦後すぐに経済復興して、オリンピックが来てという、『三丁目の夕日』的な世界とは大阪ですら全然違うし、沖縄はもっと違うだろうと。

 その輝かしさとはかけ離れた、泥だらけの戦後史に部外者がどこまで踏み込んでいいのか。逆に踏みにじることになりやしないかと恐縮しつつ、当事者以外は沖縄を書けないというのも、違うだろうという思いもあった。むしろ部外者だから見えるものもあるはずで、歴史の傍観者としてのフラットな視点を僕は大事にしたつもりです」

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