レバノンに逃亡したカルロス・ゴーン(時事通信フォト)
こうして山本は日本一周を目指す旅人に変身し、各地の道の駅で地元住民たちと交流するようになった。
「逃走中とは思えないほど積極的に人とかかわっていた。ボランティアで草むしりを行い、真っ黒に日焼けをしていたこともありました」(前出・全国紙社会部記者)
高橋さんは、彼らが潜伏した土地に足を運んだという。
「とある道の駅の職員さんに聞いたのですが、山本は店に入ると、程なく店員さんに雑談を仕掛け、油断した隙を突いて、たこ飯やパン、コーヒーを盗んでいたといいます。彼の積極的にコミュニケーションを取る姿勢は、万引にも生かされていました」(高橋さん・以下同)
山本は富田林署に勾留中だったため、スマホを没収されていた。だが、その素寒貧は、逃げるためには有利に働いたようだ。
高橋さんによれば、近年の警察は、特にデジタルフォレンジック(電磁的記録を使った捜査や証拠集め)に力を入れており、個人情報が集約されたスマホを持ったまま、多くの監視カメラが設置された公共交通機関で逃げ続けることは困難だという。反対に、スマホを持たず、盗んだ自転車で移動した山本は、その“アナログぶり”によって、最新の捜査手法の裏をかく存在になっていた。
「彼の場合、スマホがなかったのは勾留中だったからですが、気づかずに彼を“助けた”人が多いことは事実です。スマホに頼りすぎず、目の前の人と向き合って会話をするというのは、古典的なようですが、最も手っ取り早く“信用”を得る手段なのかもしれません」
ちなみに日本における「逃亡犯」には大きく2つの種類があるという。1つは、勾留中の者や受刑者が逃げ出した場合。もう1つは、保釈中の者が行方をくらました場合だ。
「前者の場合は、逃げるという行為そのものが罪になり、『単純逃走罪』あるいは『加重逃走罪』で罰せられます。一方で後者の場合は、逃げるという行為そのものは罪になりません」
2019年に日本からレバノンに逃亡した日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告も、保釈中だったため、逃げたことそれ自体の罪には問われていない。
※女性セブン2022年6月23日号