体の不調や病気を治すために、症状を緩和させて元気に生活するためにのんでいるはずの薬だが、のみすぎによる弊害も指摘されている。厚生労働省も“薬ののみすぎ”が健康を害する可能性を指摘しているが、なかなか断薬、減薬ができない人も少なくないという。
薬をのむのをやめたら症状が悪化するのではないかという不安感から、断薬に踏み切れないケースも多いというが、理由はそれだけではない。日本で初めて「薬やめる科」を開設した松田医院和漢堂院長の松田史彦さんが言う。
「“この薬は必要ないのではないか”“むしろ最近の不調は副作用が原因なのでは?”と疑問に思いながらも、かかりつけ医との関係性を壊したくないがために診察時に言い出せず、処方された薬をひたすらのみ続ける患者もいます。
子供が高齢の親を当院に連れてきて『親が薬をのみすぎているから減薬の相談に乗ってほしい』と訴えることがありますが、本人は『かかりつけ医に世話になっているから、減らしてほしいとは言えない』と主張する。主治医には言い出せずに、処方薬を持ってこっそり相談にくる人さえいます」
こうしたゆがんだ関係性の背景には日本特有の風土や医療制度があると松田さんは分析する。
「そもそも日本では昔から医師の社会的な地位が高く、“お医者さんの言うことをよく聞かなければ病気は治らない”とすり込まれている。特にインターネットが普及しておらず、情報源も限られていた高齢者の世代はその風潮が顕著です。自分の体は医師に任せて、言う通りにしておけば問題ないと考えている人が大半なのです。
しかし一方で、生活習慣病に関しては、食事や運動といった日常生活の改善が肝要であるにもかかわらず、医学部ではこうした指導を患者にどう行うかについての講義や研修はほとんどありません」(松田さん)
つまり、薬の処方以外のアドバイスができる医師がほとんどいないのが現状だということ。
「たとえアドバイスできたとしても、現行の医療保険制度では生活指導をして減薬しても病院に利益が出ないため、積極的に行う病院はごく少数に留まっています」(松田さん)
その差は海外と比べると歴然だ。全国の医師と連携して減薬に取り組む名古屋経済大学准教授で管理栄養士の早川麻理子さんは、研究で南フランスを訪れた際に、患者が持つ健康への意識の違いを肌で感じたという。