ジャーナリスト・横田増生氏が、維新の選挙ボランティアとして内実を見た
大学の無償化について、冨田はこう言葉を続ける。
「これも政府が2年前から始めた大学や専門学校の無償化に、大阪府と大阪市がちょっと色を付けた程度の話にすぎないんです。国の所得制限が380万円のところを、590万円に引き上げた。それも、大阪府立大学や大阪市立大学に限った話で、大阪が地元の大学の教育費を無償にしているなんて、現実から大きくかけ離れています。
ただ、この3点に限らず、何でも単純化して言い切る維新の会の選挙活動です。その手法は、有権者を惑わすミスリーディングで、かつ危険なものと言わざるを得ません」
維新の会の子育て政策を、主要各党と比べてみるとどういう結果となるだろう。
日本大学教授で教育政策こども政策を専門とする末冨芳は、1・教育の無償化などの子育て政策に所得制限を設けるかと、2・マニフェストに財源を明記しているのかという二つの基準を用いて、主要6党の政策をランク付けしている。それによると、維新の会は、国民民主党や立憲民主党、共産党や公明党に次いで5位となり、その下には6位の自民党しかいない、という状態だ。
「維新の言う身を切る改革だけでは、教育の無償化などを実行する財源とはなりません。特に維新の掲げる大学を含めた高等教育の無償化に本気で取り組むには、現在の子育て支援などにかかる約7兆~8兆円にプラスして、あと8兆円程度かかるとみられます。それをどうして確保するかという明確な工程がないと、正直で、公平な政策論争にはつながらない、と考えています(末冨)」
維新のマニフェストに厳しい点数を付けるのは末冨だけではない。
早稲田大学マニフェスト研究所が主要9党のマニフェストを採点し、維新の会の得点は、100点満点で18.6点どまり。採点した9党の8番目で、維新の会より下に来るのはNHK党しかない。総評では、「『政策提言』との関係についての説明もなく、有権者にまじめに政策情報を届けようという意識があるとは思えない」と酷評する。
「野党第一党」の座を手に入れた日本維新の会であるが、随所に素人集団としての色合いを色濃く残している。今後、こうした点をどれだけ改善できるかで、維新の進む道も変わってくるだろう。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。ジャーナリスト。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。1999年よりフリーランスとして活躍。2020年、『潜入ルポ amazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞を受賞(8月に『潜入ルポ アマゾン帝国の闇』と改題し刊行予定)。近著に『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』
※週刊ポスト2022年8月5・12日号