佐々木朗希・高校3年の夏(時事通信フォト)

佐々木朗希・高校3年の夏(時事通信フォト)

まさかあいつが投げるのか

 3年前の岩手大会決勝の日の早朝、背番号「12」を付けていた柴田貴広(現・大東文化大3年)は練習会場だった盛岡大附属高のグラウンドに到着。すると、國保が用意したスタメンを告げるボードに自分の名前を見つけた。

 まず驚きが勝った。柴田はこの夏はもう登板機会がないことを覚悟していたからだ。次に、戸惑いが襲ってきた。決勝までの5試合、実質5番手の実力に位置づけられる柴田は一度もマウンドに上がっていなかったのだ。

「自分でいいのかな、と思いました。朗希が投げたほうが勝つ可能性は当然高いし、僕が先発であることにみんな驚いていましたから。でも、せっかくいただいたチャンス。頑張るしかない、と。その時点では(試合途中から)朗希が投げるかもしれないと思っていたので、朗希までの『つなぎ役』としてできることをやろうという気持ちでした」

 國保は大会前から部長の吉田小百合や外部コーチらに、速球対策などに余念がない強豪私立には、右サイドハンドの柴田のような変則投手こそ有効だと話し、決勝での登板をほのめかしていた。コーチらは冗談と受け流していたが、國保は本気だったのだろう。

 プレイボールの直前、球場は不穏な空気に包まれていた。岩手県営球場のバックスクリーンに柴田の名前が表示される前から、佐々木がキャッチボールすらやっていないことで、先発が佐々木でないことを観客も薄々勘づいていた。客席に近いブルペンで投球練習をする柴田の耳には、観客の囁きさえ届いていた。

「『まさかあいつが投げるのか』と。気にしないようにはしましたが……。大会中、國保先生から『肩、ヒジの状態はどうだ?』と訊ねられたことはあっても、決勝での登板の可能性については何も言われていませんでした」

 柴田が1回表の綺麗なマウンドに上がる。先頭打者に三塁打を浴び、四球と悪送球によって早々に失点すると、3回までに4失点を喫した。

「決勝を前にビデオを観たりしていましたが、実際の花巻東は、あまり振ってこないというか、ヒットを狙うというより出塁することを第一に考える打線でした。バントの構えをしたり、スリーボールになると一度、打席を外してみたり。とにかくいやらしさがあった」

 球速のない柴田は、ベンチで見守る佐々木にアドバイスを受けながら、コースを丁寧について花巻東の打者にゴロを打たせようとした。

「自分としては3、4回あたりで『通用しないな』というか……。『今の自分じゃ(抑えるのは)無理だ』と思いました。だけど、監督さんは自分を引っ張ってくれた。勝利への糸口があると思ってくれているんだと自分に言い聞かせて投げていました。ただ、勝つためには代えてもらったほうが良かったかなと思います」

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