スポーツ

佐々木朗希・高校3年の夏【前編】岩手大会決勝で投げた「背番号12」の思い

背番号「12」を付けていた柴田貴広(現・大東文化大3年。撮影/藤岡雅樹)

背番号「12」を付けていた柴田貴広(現・大東文化大3年。撮影/藤岡雅樹)

 今年も「夏の甲子園」が開幕する。ただ、才能溢れる球児が必ずしも聖地に辿り着くとは限らない。最たる例がロッテ・佐々木朗希だろう。高3の夏、岩手大会決勝でまさかの「登板回避」──当事者たちは今、どう振り返るのか。当時の監督やナインの克明な証言を収録した新刊『甲子園と令和の怪物』の著者・柳川悠二氏がレポートする。【前後編の前編。文中敬称略】

 * * *

ナインの夢が絶たれた

 令和の怪物が、覚醒の時を迎えている。

 千葉ロッテに入団して3年目の今季、佐々木朗希(20)は4月10日に史上最年少で完全試合を達成し、オールスターでもパ・リーグの先発投手部門に1位で選出された。「日本のエース」と呼ばれる日も間もなくだろう。

 岩手県立大船渡高校の監督・國保陽平が、岩手大会決勝・花巻東戦で投打の要だった佐々木を起用しなかったのはわずか3年前だ。その理由は「故障から守るため」。結果、大船渡は大敗を喫し、35年ぶりの甲子園出場は果たせなかった。

 目先の勝利よりも、佐々木の将来を優先し、この飛躍を導いたという点で、あの日の國保の決断は英断だったのかもしれない。今春、國保は私の取材にこう答えている。

「正解だったのか、間違っていたのか、それは分かりません。結局、朗希が登板しなくても、勝てるようなチーム作りが僕にはできなかったわけですから。当時、監督として一番恐れたのはヒジの故障です。決勝までにかなりの球数を投げていた朗希の右ヒジが、勝てば甲子園という状況の決勝で160キロ超というボールの出力に耐えられるのか。そこを懸念しました」

 決勝で投げさせたとしても将来に影響を与えるようなケガを佐々木が負うことはなかったかもしれない。だが、故障リスクの最も高い日だったことは間違いない──。だからこそ登板させなかったことの後悔は國保になく、「もう一度、あの日に戻ったとしても僕は投げさせません」と断言した。

 私は2019年夏以降、幾度も岩手に足を運び、いっさいの取材を拒否していた國保との距離を少しずつ縮めていった。

 しかし、甲子園という唯一無二の夢を絶たれた他のナインたちは、当時、國保の決断に納得し、敗北を素直に受け入れることができたのだろうか。その疑念が拭いきれない以上、私も「登板回避事件」の取材に決着を付けることはできなかった。そんな折、あの日の決勝の「もうひとりの主役」とアポイントが取れた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト