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AI技術と人の記憶によるカラー化でよみがえる「戦時下ニッポンの市民たち」

約1万5000人の犠牲者を出した、1945年6月7日の大阪空襲。消火活動を行なう町の人々(カラー化/渡邉英徳)

約1万5000人の犠牲者を出した、1945年6月7日の大阪空襲。消火活動を行なう町の人々(カラー化/渡邉英徳)

 1960年代頃まで、風景を切り取る主な手段は白黒写真だった。カラー写真が普及し動画も当たり前となった今、白黒写真は「現在とかけ離れた時代を写した遺物」として扱われる。そこで忘れてはならないのは、白黒写真を撮影した当時も世界は現代同様、色に充ちていたという事実だ。

 東京大学大学院教授の渡邉英徳氏らのチームは、「忘れ去られようとしている貴重な記憶を未来に残したい」との想いで白黒写真のカラー化に取り組んできた。

 カラー化するには、まず「空は青」「雲は白」という一般的なデータを持つAI(人工知能)が、形状から判断して自動で色付けを行なう。だが、それはまだ推定の段階だ。たとえば原爆雲は、戦争体験者や専門家の指摘により本来の色へと着実に近づいていく。

 古い写真も、カラーになると被写体を身近に感じられる効果があるという。1945年の太平洋戦争終結から今夏で77年が経過するが、戦争の記憶が薄れれば、日本が当事者として再び戦争に関わる未来もあり得る。その危うさへの警鐘を、カラー化された戦時下写真から受け止めたい。

 勝ち戦と豊かな未来を信じて暮らす人々の日常があった戦前から、不意の爆撃で生活圏が焦土と化した空襲の様子、民間人と日米兵士の犠牲者29万人にのぼった沖縄戦のカラー化した写真をお届けする。

【プロフィール】
渡邉英徳/東京大学大学院情報学環教授。「ヒロシマ・アーカイブ」をはじめ記憶の継承をテーマに研究を進める。

※週刊ポスト2022年8月19・26日号

1945年6月8日、大阪空襲の翌朝には大勢の通勤者が十三大橋を行き交っていた(カラー化/渡邉英徳)

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